薄暮の街へたどりつき
大手町から神保町まで歩こうと思ったら、道を間違えてとんでもない遠回りをしてしまった。
方向音痴ではないという自負があり、知らない場所でもわりと平気で歩ける。
けれど、その日は途中で雨も降ってくるし、直前の仕事での不完全燃焼さもあいまって、見知らぬ景色と周囲のビジネスマンたちの迷いのない足取りが、気持ちを乱す。
頼れるのはグーグルマップだけ、という心細さ。
方向感覚を失ったままグルグル歩き回っていたら突然、絵本の森の入口みたいな場所が。グリーンのリースやオリーブの木や多肉植物がズラリと並び、窓の奥には赤い実のついた枝や温かく灯るあかり。外国のクリスマスみたい。
小さなお花屋さんだった。店員さんの姿はない。そして、その場所を気にとめる人もいない。
自分以外の人には、ここが見えてないのかもと、おとぎ話みたいなことを思う。いや、もしかしたら私のほうが別次元に紛れ込んだのかも。だから、歩いても歩いても目的地に着けないの?
ふと見ると店先にショップカードがあり、不在のこともある、という趣旨のことが書かれていた。
ドアを押す勇気はなく、外から何枚か写真を撮らせてもらった。
それからまたしばらく、見当違いな道を歩き続けて、本屋街の端にたどり着いたときは、すっかり薄暮の街。
そのまま吸い込まれるように東京堂書店へ。
なんとなく手に取り、これは、と思った初めて読む著者の本を2冊購入。ここのところ、スマホのメモにある「読みたい本リスト」から探すことが多く、事前情報なくビビっと来た本を買うというのは久しぶり。
きっと、「この日のこの時間帯にこの精神状態でそこにいるから」選んだ本。親切な店員さんの対応が心にしみたのも、きっとそんな1日の終わりのご褒美か。
併設のカフェに流れる時間に心を委ね、ひと息をついてから神保町駅へ向かう。思っていた地下鉄の入口と違うところを降りて、またしても構内を長いこと歩く。
今日はそういう日なんだな、と思うしかない。
おとぎの森の花屋さん、頭の中で地図を描いても、もはやたどり着けない。
けれど、あの日のあの街で感じたいろんな気持ち、見た景色を忘れないでいようと思う。
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