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“レズ”の歴史についてAIと話しあった

 前にブログに“レズ”は差別語であるということを書いておこうとして、簡単な歴史を紹介する記事を公開しました。しかし、いかんせん反応は良くなく、何が悪かったのかなあと悩んだりしました。

 そんなわけで、AIに記事を読ませてみたところ、「断定的ではない」という、「そんなことできたら誰も苦労せんわ!」という、かなり萎える回答が返ってきました。

 AIとのやり取りで気がついたのですが、どうもAIは「男性を楽しませるポルノ的文脈だから“レズ”は差別語である」という認知で結論を固めているらしく、私の記事はその点が特に気に入らないようです。

 このあたりは女性同性愛創作に興味がない人も気がつきにくいところなのですが、「えっちな百合は男性を喜ばせるものでしかない」みたいな議論が展開されると、「女性だってえっちな百合は大好きです」とか「レズビアンにも性欲はあります」とか、そういったツッコミが入ってきた経緯があるため、ポルノ的文脈を差別と安易に結びつけられるか否か、非常に悩むところなのです。

 AIによれば、男性を喜ばせるポルノと、女性を喜ばせるポルノとは、まったくの別物だから、前者で専ら使われてきた“レズ”は差別語で間違いないとドヤ顔で語ってきたのですが、その男性向けと女性向けの線引きとか一体どこで付けるんだと質問したら、ものの見事に引っ込めてきて、ほうら言わんこっちゃないとなりました。

 そもそも「男性向けのエロが大好き!」と言う異性愛者女性も昔から別に珍しくはありません。最近は某有名成人向け漫画雑誌も執筆陣の半分ぐらいが女性になってるとかいう話(伝聞)で、昨今の少年漫画以上にジェンダーレス化が進んでいるんじゃないかと疑ってしまうぐらいですが、さすがにそれは言い過ぎとして、とにかく「こういうコンテンツは男性しか見ない」みたいな前提は避けるべきであり、あくまで多い少ないまでの次元に限定しておかなければなりません。


 仮に“レズ”が男性を喜ばせるためだけの言葉になっていたからというのを前提に考えると、“レズ”という存在が女性を性的搾取したい男性にとって都合のいい存在になっていないといけません。しかし、そういった方面から考えて、どうにも具体的な“レズ”像が浮かんできません。浮かんでこないというか、それを具体例を持って説明する人に、私はなかなか出会えませんでした。


テレビアニメ『私の推しは悪役令嬢。』第2話 より
公衆浴場で鼻血表現までして欲情を見せる主人公のシーン

 私のブログで引用している『日本のフェミニズム since1886 性の戦い編』内の「5.レズビアン運動史――女と生きる女」の記述から考えると、例えば『私の推しは悪役令嬢。』の主人公のような色情魔型ステレオタイプがそうであるのかなと思います。しかし、そういう訳だから“レズ”は差別語だとするのもちょっと弱いかなというのが、私が思ったことです。

 もっとも、そのあたりは当時と今とでは社会全体のムードが違うので、「性のテクニックで女を虜にしてしまう女」という文脈にしても、今だと昔ほどの差別感は出てこないのが、現代で“レズ”の差別性をポルノで説明する難しさであると思います。そう考えると、ポルノ文脈で“レズ”に差別的意図が含まれるのも、その前段階から既に差別語として成り立っていたとも推察できます。

 他に考慮すべき点として、女性同性愛が病気として大真面目に語られていたことから来ている所以があるわけですが、その理由ですとやはりポルノだけの責任というわけでもなく、社会全体が悪いという話になってきて、どうにも整理が追いつきません。(ちなみに、病気として大真面目に語られていた女性同性愛については『「レズビアン」である、ということ』が、当時の本に書かれていた実例を引用紹介しているので、興味のある方は読んでみてください。)


 私が想像する差別語としての“レズ”の生まれのきっかけは、「佐良直美事件」と、「ホモは差別語運動」の2つが大きかったのではないかということです。

 この“ホモ”についても、差別語とするのに反対する当事者がけっこういるわけなのですが、何故“ホモ”が差別語かと言えば、精神疾患の名称として“ホモ”という「診断」が行われていたので、そういうことをやっていた国・地域からすると、差別語として使わない言葉にしていこうというのは当然の流れではあったのです。

 そして、私のブログに書いたように、"homo"だけではなく“fag” “faggot” “dyke” “sodomite”といったような表現も蔑称として使うのをやめようという運動がありました。

 その流れが日本に来た時に、“dyke”と同一視されて差別語として扱おうとなったのが“レズ”ではないかということを、私は想像しています。“dyke”と“レズ”では意味合いがだいぶ違うのですが、いかんせん他に当てはまるものがないのです。“dyke”は“レズ”と違っておそらくは侮辱的意味合いから始まっていたと思われる言葉ですが、日本人はその問題をそのまま輸入したような気がします。



 もちろん私は“レズ”の差別性を否定したいわけではありません。しかし、現代の「ポルノワードだったから」という理由だけでわからせようとするのは無理があるという気がしてならないという思いもあります。本当にすべき理由の説明は、過去に同性愛を病気として大真面目に社会から扱われてきた時代があり、ポルノという地下的分野だけではなく、大手メディアにて「あってはならない存在」として語られていた歴史そのものであるべきだと私は考えます。


作画:川崎三枝子 原作:滝沢解
黒衣の女1 (マンガの金字塔) Kindle版
5話 20世紀黒魔術 より

 1970年ごろに発表された『黒衣の女』というバッドエンドだらけのホラー漫画があります。そのなかに妻の同性愛を矯正しようとする夫の話が出てきます。おそらくは何かしらの先行作品をマネして描いたエピソードだと思いますが、差別語として“レズ”を説明する際には、そういった価値観が過去にあったこともしっかりと抑えておかなければなりません。


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