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作りたい女と食べたい女…すごい一体感を感じる…

 ニコニコ大百科で申し訳ないんですけど、先日、たまたま上記のページが目に止まったので見てみたわけなのですが。

962 : 名無しさん@九周年 sage 2008/07/02(水) 00:48:15 ID:g373IYdK0
すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。
風・・・なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。
中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。
ネットの画面の向こうには沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。
信じよう。そしてともに戦おう。
工作員や邪魔は入るだろうけど、絶対に流されるなよ。

2chニュース速報+

 このマインド、『作りたい女と食べたい女』(以下、『つくたべ』)を高尚漫画と言って譲らない人に非常によく似てますね…。

 問題になったのは、同サイトの1コーナーだった「WaiWai」。「週刊大衆」「週刊実話」「Spa!」など国内の雑誌報道を引用しながら風俗を紹介するコーナーだが、「日本人女性の55%は、出会ったその日に男と寝る」「六本木のレストランでは、食事の前に材料となる動物を獣姦する」など極端な内容も多く、「低俗過ぎる」「誤解を与える内容を世界に配信し日本をおとしめた」「日本が誤解される」などといった批判が5月下旬ごろから「2ちゃんねる」などで起きていた。
 同社は「雑誌の一部を引用したものとはいえ、サイトに掲載したことは問題があった」として、批判のあった記事を削除。問題がありそうな過去記事もアクセスできないようにし、検索サイトにも非表示にするよう要請した。

毎日新聞が謝罪、関係者処分 「低俗過ぎ」英文記事への批判で - ITmedia NEWS

 上記の「すごい一体感を感じる」のそもそもの発端は、毎日新聞の英語サイトに問題があったという件で、電凸だの何だのと大盛り上がりになったことが記録として残っています。けっこう古い話で、2008年の事件です。

 さて。『つくたべ』も、この作品を崇める人たちが当事者の批判意見に群がっては叩きまくっていました。このあたりのことは後世にも伝えるためアーカイブにしてまとめたほうが望ましいのですが、一般の個々人の言動を記録するというのは「合法だから」で押し通すのには現実問題として無理があり、残念ながら口伝で残すしかありません。

谷口菜津子『今夜すきやきだよ』
第2話 8時間肉といい奥さん
くらげバンチにて無料公開中

 『つくたべ』という漫画が合法の範囲内で盗作的行為が多数ある点を誰も擁護しないように、合法なら何やっても構わないとは言い難いのです。

 最近『薔薇族』が電子配信されており、私は初期の一部のみを読んでみたのですが、かわいそうなゲイ男性のために自分が偽装結婚の相手になってあげたいみたいな女性読者の投稿があり、当事者からするとイヤだっただろうなあとか想像したりしました。こういうのを見ると、やはり紙というメディアの伝承能力は偉大だなと考えてしまうわけですが、それはそれとして置いておきましょう。


伊藤正臣『ふたりでおかしな休日を』第5巻収録
第39話 牛乳ホイップのコーヒーゼリー

 そもそも何故『つくたべ』に対する当事者視点の批判が差別発言でしかないように叩かれまくったのでしょうか。創作においてマイノリティを描くという課題に関して、パーフェクトな回答を持って描くというのは、例えば『ふたりでおかしな休日を』で描かれている総意問題のように、当事者を含めて非常に難しいものであり、特に当事者による批判意見に関しては素直に受け止める謙虚さを必ず持たなければなりません。

 にも関わらず、『つくたべ』における一部読者のネット上における暴徒的行為はとにかく思考が狭すぎる非常にみっともないものであり、まさしく「すごい一体感を感じる」以外に形容のしようがありません。「極右と極左は隣り合わせの近い存在」などと呼ばれて久しいものですが、昨今においてもそういった現象は相変わらずなのでしょう。


はじめに

たくさんのGL・BL作品、同性愛表象が存在するこの国で、同性婚が法制化されていないという事実がずっと不思議でなりませんでした。フィクションのなかでは自由に描かれる一方で、現実では性的マイノリティのひとたちの権利が制限されている。そんな現状を、物語を楽しむひとたちにも知ってほしい。同性愛を描く人間として、できることはないかと考え、企画したのがこの「作りたい女と食べたい女」チャリティプロジェクトです。好きなひととでもいい、自分ひとりでもいい。誰もが望む未来を選択できる社会になってほしい。その実現への一歩を、一緒に踏み出してみませんか。

ゆざきさかおみ

チャリティプロジェクト | 作りたい女と食べたい女 | KADOKAWA
(メンテ中によりアーカイブより)

 そもそも『つくたべ』のチャリティ活動は「同性愛を描く人間として、できることはないかと考え」から始まっているらしいのですが、創作において行うべきことは本来創作を通して訴えかけることであり、作品の「正しさ」が外部活動に依存するのであれば、それは作家としての怠慢に他なりません。

 何故、同性カップルが同性婚を求めるかと言えば、最も多く挙げられるのが病院絡みや死別の時の不安であり、同性婚訴訟の当事者による著書にもそのあたりはしっかりと書いてあります。果たして『つくたべ』はそこまで触れたでしょうか。「そんな現状を、物語を楽しむひとたちにも知ってほしい」と述べた著者が自らの発信の責任を取らないままであるのは何故なのでしょうか。

作りたい女と食べたい女 on Instagram: "本日、朝日新聞の朝刊5面に 『作りたい女と食べたい女』チャリティプロジェクトの全面広告が掲載されました。 ――――――――― #物語のままで終わらせない すきなひとと、食卓を囲みたい すきなひとと、一緒にいたい けれど、 いまのままではこのふたりが どんなに望んでも どんなにこの先連れ添うことになっても 同性同士であるふたりは 「結婚」を選べないのです 日々、同性カップルを描いた たくさんの作品が生まれる一方で 今の日本では同性婚が 法で認められていません 漫画のコマのなかで 小説の文章のなかで テレビの映像のなかで ふたりの幸せは、物語のなかだけで 完結してもいいのでしょうか 物語に託した「祈り」を、次の一歩に ひとりひとり違う「すき」のかたちを 実現できる社会に 『作りたい女と食べたい女』は すべてのひとが結婚を 自由に選択できる未来を応援します ――――――――― #作りたい女と食べたい女 #つくたべ" 258 likes, 1 comments - tsuku_tabe on November 14, 2022: "本日、 www.instagram.com

 さらに付け加えるなら、『つくたべ』は各マイノリティ当事者を特別扱いせずにひとりの人間として接することを完全放棄したデタラメ漫画であり、極めて深刻な差別的作品であると私は繰り返し指摘してまいりました。「ふたりの幸せは、物語のなかだけで完結してもいいのでしょうか」と打ち出しつつも、レズビアンを「助けてあげなきゃいけない人」とだけでしか捉えていないのは一体何のギャグなんでしょうか。


 極端な話、「すごい一体感」という名のエクスタシーに浸るのも自由ではありますが、そこから何の進歩も生まれないことはきちんと知るべきだと、私は思います。


余談

黒崎みのり『初×婚』第15巻収録 #58

 最近(2024年11月基準)の漫画で「レズビアンを特別扱いしない」「同性婚が認められていないという問題提起がある」の2つが満たされてるのは、私が読んだ中ではやっぱりこの漫画かなあと思います。まあ、ところどころ「これでええんかな?」と個人的に感じる描写もあったりしますが。


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