「百合漫画は学生ばっかり!」←そもそも大人は漫画自体読まなかった
この記事タイトルの「大人は漫画を読まなかった」については明らかに言い過ぎであり事実に反するのですが、note記事にしても「題名はなるべく短くすべき」というのも感じてきましたので、あえて乱暴にまとめて表現しております。
この序文の言いたいことは、要は「百合と言ったら女子学生ばかり! 多様性が否定されてる!」ということらしいです。こんな古臭いことを序文に持ってきて切り出すのですから、随分古い本なのかと思いましたが、よく見たら2020年に書かれた本で私は驚いております。
最近気がついたのですが、どうも2024年になっても英語圏では「百合は学生ばっかり!」とか唱えているみたいなので、『「百合映画」完全ガイド』序文の著者はその受け売りで「百合は学生ばっか理論」を掲げ、本書がものすごい百合マニアが書いてる本だとアピールしたかったのかもしれません。(実際どうなのかはわかりません。)
なお、『「百合映画」完全ガイド』のこの序文は各電子書籍販売サイトで全文無料で読むことができるので、気になる方はそちらで読んでおいてください。
まあ、確かに百合漫画などが学生モノに集中したのは、この作品の扱われ方を見たらそうなのでしょうが、そもそも百合に限らず漫画の主流自体が10代をターゲットにした作品であるのを忘れてはなりません。
検索してみたところ、2020年前後ぐらいから「漫画原作のテレビドラマが多すぎる」という不満がネットには繰り返し書き込まれているようで、そう言われるとメディア全般での漫画の地位は近年になって急速に高まっているように思います。
私のお粗末なネット検索能力では、大人の漫画読者の数がどの期間にどれぐらい増えたのかという調査にはたどり着けませんでしたが、少なくとも週刊少年ジャンプの読者平均年齢の上昇はひとつの参考になるでしょう。
漫画とテレビドラマの関係についての上記記事が2013年です。読んでみると、漫画は若い人向け、テレビドラマは成年向けといった感じに、昔は“住み分け”されていたとも言え、古い時代になればなるほど、大人が漫画を読むイメージは薄くなります。(レディコミとか昔からあると言えばあるんですけど。)
漫画を卒業した「大人」たちは、出演者基準でテレビドラマを選定・視聴し、見た感想も「(演じた役者の名前)が~」と、ドラマを見ていたのか芸能人様を見ていたのかよくわからないことを言うようになります。それがいいか悪いかは抜きにして、そういうものなのです。
…と、まあ、漫画を読む大人自体は存在したものの、時代が古くなればなるほど成年層ターゲットの漫画はマイナー傾向だったと考えられ、漫画作品そのものが学生に集中するのは商業的にやむを得なかったのではないかと私は考えます。
もちろん百合の表現方法としては漫画だけではなく、小説などの媒体もあるわけなのですが、『マリア様がみてる』という特に突出した作品を除くと、百合という文化が漫画とアニメに引っ張られていたのはどうしても否定しかねるところです。
そういったわけで、百合=学校に縛られているという切り取り方は過剰に近視眼的な見解であり、「恋愛を主題とする漫画自体が学園モノになりがちで、なおかつサブカル全体の中心になりがち」というのが正しい現状だったのではないでしょうか。今でも「学園パロ」は関係が同性異性問わず人気なことですし。
『「百合映画」完全ガイド』序文が問題視(?)している百合と学校との結びつきですが、漫画文化自体が学生の年代と強く近寄りがちなことに加えて、昔から少女漫画などが学校という空間を強くファンタジー化させ、憧れの社会として描いてきたこともあるので、漫画好きならそういった先人の積み重ねを否定してはならないでしょう。
また、学校はキャラクター同士を絡ませるのに非常に便利な舞台であります。それに加えて、制服の存在によって私服のデザインをサボり、ついでに描き手のファッションセンスの無さをごまかしやすいことも好まれる理由なのではないかと思います。(ありがとう、学校制服。)
ちなみに、中国の漫画市場ではけっこうな数の百合漫画がリリースされていますが、学校・学生の百合漫画は割と少ないです。
もちろんあると言えばちゃんとあるのですが、主要キャラクター全員既に社会に出ている設定の百合漫画のほうがメジャーであるように感じます。
それどころか、アプリ内の作品全体を見渡しても、学校・学生の漫画自体は控えめです。皆無というわけではありませんが、そこまで多くは感じません。
代わりに多いのが中国国内の時代劇です。
日本語に翻訳されピッコマで連載されている『負けヒロイン救済計画』は、ヒロイン救済のために様々な定番フィクション世界へ訪れるという漫画作品ですが、これまた国内時代劇が多く、一方で学校舞台の世界がとても少なくなっています。(しかも、珍しく学園に行ったと思ったら、妙に日本がモデルっぽい世界だし。)
どうも中国では、日本で言うところの大河ドラマが活況らしく、日本人の間でも多くのファンがいるとかいないとか。故に、中国の漫画業界もその影響を受けているのではないかと思います。
そういえば、『顾小姐和曲小姐』も物語序盤で時代劇を演じる流れでした。語学力の壁で、なんで曲が男装で男役を演じてるのかはよくわかりませんでしたが。確か、曲が人気あるから強引にねじ込んだという設定だったかな…。わからんけど…。
余談。成年向けに描かれた古い漫画で大人百合の個人的お気に入りは、推定1970年代前半発表の『黒衣の女』です。「この程度で百合漫画と呼べないのでは?」というツッコミが来そうなレベルですが、『「百合映画」完全ガイド』の百合基準で言えば、完全に百合です。
『「百合映画」完全ガイド』のレビュー記事は上記ブログに書いています。
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