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*まっすぐな瞳

ゆうたろうはワタシより14歳年下だ
「麻美さん、一度ご飯行きましょうよ」
そんな誘いを何度も受けながら
「いつかね~」とさらりと流してた

40代半ばのわたしと30代始まったばかりの彼と
話が合うとはとても思えなかったし
食事の好みだってきっと合わないと思ったから

「お願い!ねえ。お願い!退屈させないから」

いつもより熱心に頼まれた日
ちょうど浩輔との食事がキャンセルになったこともあって
「まあ、一度行けば納得するよね」とOKした

仕事終わりに待ち合わせしたから
スーツ姿だとばかり思っていたら
驚くほど彼はカジュアルな恰好だった

「あれ?スーツじゃないの?」
「一回帰って着替えてきたんだ、
汗臭いと麻美さんに嫌われちゃうから」
「そんなので嫌いにならないよ(笑)」
と笑いながら、彼なりの気づかいにちょっと嬉しくなったり
ただ私のオフィススタイルとあまりにも差がありすぎで
少し恥ずかしかったけれど

彼が予約してくれていたのは品川のイタリアンだった

思わず目を伏せてしまうくらいに
まっすぐな視線でわたしのことを見ながら話しをする

「僕、麻美さんが好きなんです。」
「は?」
「だから、僕、麻美さんが好きなんです。」

アナタ何言ってるの?大体14歳も離れていて恋愛とかあるわけないでしょ。そして社内恋愛で、しかも不倫ときたらもう絶対無理でしょう。
そういうのはワタシ無理だからね。
どうせからかっているんでしょ。
まったく最近の若い子は。。。

とあれやこれや必死にたしなめるような言葉をつらつらいうワタシに

「だけど好きだから。」と、ひとこといって
にっこり笑う

「あ、そう。ありがとう」と、
返事をするしかない。

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そりゃあ悪い気はしない
浩輔なんて絶対に「好き」だなんて口が裂けても言わないもの
なんて簡単にこの言葉をこの人は口に出すんだろう。
その理由を知りたいと、思った。ただ単純にそう思った。

支払いの伝票はゆうたろうがさっと手にして済ませてくれた

「ごちそうさま。ありがと。」

「こちらこそうれしかった。また誘っていい?」

いやだという理由はなかった
「うん。また行こう」

少しだけドキドキした
これからどうなるんだろうという期待
これからどうしたいんだという自分への葛藤と

「じゃまた明日職場でね」
改札まで送ってくれたかれに軽く手を振り
まっすぐに歩き出すワタシ

ふと振り返ると
ゆうたろうのまっすぐな視線が
ワタシに向けられていた
まっすぐすぎて不安になった

この視線に私の中で何かが大きく動き出した


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