ゆら
誰もが どうやっても抑えきれない エゴと向き合う日がくる どうしようもない そのエゴってやつが教えてくれることは とてつもなく深くて そして とてつもない大きさの 愛なんだ
初めての待ち合わせ場所に行くとき 会ったこともない人に会う自分を なんてはしたないんだろう なんて淫らなんだろうと 自分で自分のことをちょっと思った 一年前にSと壮絶な別れ方をしてから もう誰かと付き合うことなんて二度としないと思ってたのに また私はこうやって新しい恋を始めようとしているのかと 実際少しげんなりもしていたのかもしれない 恋をすることはとても楽しいけれど 恋が始まって愛へと変わるときに 自分の中でなんとも言えない苦しさが沸き起こる それをセーブできる自信もな
フィクションかノンフィクションかなんて どうでもいい 恋をすること 愛すること 尊いことだと知るために 私たちは生きている
オフィスでのNは少しだけくせ者だった 正義感がやたら強くて 間違ったことは絶対に許さない 会議でも納得いかないことがあると 相手にくってかかった けれども 敵は少なかった様に思う むしろ彼のファンという女性社員は多かったんじゃないかな 麻美のことまた見てるよ 時々同僚からもそんな風に言われて 「気のせいだよ」なんていいながら まんざらでもなく オフィスのバックヤードで書類を探していると 突然Nが入ってきて、 通り際にさっとお尻を触ってくこともあれば キスをして去って行
重たい恋愛は嫌だった 軽く扱われることはもっと嫌だったけれど 社内での恋愛なんて どうやっても本気にはならないんだから ある程度線引きをしておきたい できるだけクールさを装おう Nとの初めての時間は 驚くほどあっさりとしていた 濃厚なキスや、痛いほど抱きしめられるような そんなドラマティックなものでもなく いつも通りすすんでいくそんな感じだった 忘れられない様な熱い交わりよりも このしっとりとした違和感のない交わりは ますます私の思いを強くした 紳士的な扱い方は 仕事を
わたしは正直ラブホテルというものが苦手だ 男女のまぐわいの目的だけで設計されたその場所は合理的な場所なのかもしれないけれど どうも好きになれなかった ただ、今のこの時間から泊まるといっても 予約しているわけでもないのだから きっとそうなんだろうと思った だから 「Sまで」と Nがタクシーの運転手にホテルの名前を伝えたとき驚きとほっとした それと同時に この人はどれだけ遊びなれているのか そんな人とワタシは今から何をしようとしているのかと 冷静な気持ちが芽生えてきた 彼
今夜は帰りたくないと思った もっと一緒にいたいと思った ただその線を超えると わたしが辛くなることはわかっていた 恋を人生のエッセンスのように楽しむ器用さは そのころのわたしにはなかった 計算もできないし 駆け引きなんてもってのほかだった 好きだと思ったら一直線の今までの恋愛が Nとの新しい関係に対する躊躇を与えていた だけどどうしようもなかった もう好きになってしまったら 冷静な気持ちなんてどこかに飛んで行ってしまった 「今夜は僕は泊まることにするよ 麻美はどう
「コンヤアイテル?」と 職場のPHSにショートメールが入った Nからだった ちらっと確認したことを Nは見ていた わたしが返信をしないでそのままPHSを閉じると 「コンヤメシデモドウ?」と 再度ショートメールがきた 「メシですか?」と返信したら 「食事でもどうですか?」と少し丁寧な言葉が届いた。 「お食事ですね。承知いたしました」 レスポンスの後、そっと彼のほうを見ると 小さなガッツポーズをしていた 「かわいい人」 まあ、流れに乗ってみよう わたしには今特別な人がい
麻美と呼ばれたときのことを繰り返し思い出す いつの間にか顔がにやけてくる 仕事が手につかない、こんな感覚久しぶりだった Nのほうをちらりと見上げると 部下の誰かと話しているか 電話で身振り手振りで話しているかの 大抵はどちらかだった けれどそれ以外の時は そう、そうじゃない時は いつも私を見てた Nとの関係が ただの部下と上司でなくなるのは そう遠くはないと思った
Nとの関係が変わったのは 営業先に一緒に行った帰り道 ちょっと飯でもどう? 彼が連れて行ってくれた店は なんてことない普通の居酒屋で 特におしゃれなわけでもなく 特にオヤジ臭いわけでもなく 仕事帰りにちょっと飲む程度のありきたりの場所だった 「どう?最近は。少し雰囲気が変わっていい感じになったんじゃない? 意地っ張りな感じもなくなったし」 「意地っ張り?どういうことですか?わたし素直ですよ~」 「いやいや、か、な、り、曲者だよ。麻美は。」 Nは急にわたしのことを麻美
ゆうたろうのまっすぐさは 昔の彼を思い出させた わたしが就職したときの上司だったNは9歳年上の 40代になったばかりのひと 大学時代から付き合っていた人と別れたばかりで ちょっとやさぐれていた私 仕事で凡ミスが続き上司としても見かねたのだろう 会議室に呼ばれ、かなり叱責を受けた 泣きそうだった だけど仕事が原因で泣くなんて自分が自分を許せない 男女雇用機会均等法がようやく浸透しつつあったそのころ 総合職として男性と並んで仕事をしてた私は 「やっぱり女はこれだから」とい
愛は自由だ 愛することは自由になることだ そんな言葉を徒然綴ります
ゆうたろうはワタシより14歳年下だ 「麻美さん、一度ご飯行きましょうよ」 そんな誘いを何度も受けながら 「いつかね~」とさらりと流してた 40代半ばのわたしと30代始まったばかりの彼と 話が合うとはとても思えなかったし 食事の好みだってきっと合わないと思ったから 「お願い!ねえ。お願い!退屈させないから」 いつもより熱心に頼まれた日 ちょうど浩輔との食事がキャンセルになったこともあって 「まあ、一度行けば納得するよね」とOKした 仕事終わりに待ち合わせしたから スーツ
恋をしているのかしていないのか その時間が一番甘くて切ない 彼のことを考えて心がきゅっとして そんなときに彼からメールが来ていたりすると さらにきゅっと心がうずく 好きだとか、会いたいとか、どうしてるとか そんなわかりやすい言葉はなにひとつなくても 浩輔が私のことを想っていることは 言葉の一つ一つからあふれてた
出会ったのはブログだった。 ワタシが書いていたネイルサロンの記事に浩輔がコメントをくれたのがきっかけ。恋愛関係に発展するなんて微塵も思ってなかった。 そもそもワタシは本気の恋愛はもうめんどくさいと思ってたから。 夫との離婚話は話は出ていても一向に進まなかったし。 数年前に婚外という苦しい恋愛を経験し、 得るものは何もなかったから。 奥さんのいる人を好きになることは二度とご免だった。 浩輔はバツイチだけど、 彼の投稿からは彼女がいて半同棲しているような様子だった。 大切な