*今夜は帰らない
今夜は帰りたくないと思った
もっと一緒にいたいと思った
ただその線を超えると
わたしが辛くなることはわかっていた
恋を人生のエッセンスのように楽しむ器用さは
そのころのわたしにはなかった
計算もできないし
駆け引きなんてもってのほかだった
好きだと思ったら一直線の今までの恋愛が
Nとの新しい関係に対する躊躇を与えていた
だけどどうしようもなかった
もう好きになってしまったら
冷静な気持ちなんてどこかに飛んで行ってしまった
「今夜は僕は泊まることにするよ
麻美はどうする?
一緒に来る?
それとも送っていこうか」
「着替えもなにも用意していないから」
「明日は休めばいい
上司(僕)への報告は終わっているからね。
安心でしょ。
必要なものがあればどこかで買おう」
そう言ってNはわたしの手を握り
歩き出した