価値創成型プロジェクト:アジャイルにも色々あるシリーズ(その2)
アジャイル開発やアジリティが重要と言われて久しいですが、アジャイルといっても色々あるのです。
この記事(その2)では、ビジネス的な意味での「アジリティ」を追求する「価値創成型プロジェクト」にフォーカスします。
組織に求められる「アジリティ」
ビジネス的な意味での「アジリティ」は環境変化に即応する経営や組織運営における機敏性を表しています。
もちろん、多くの経営者、組織管理者は、これまでも組織経営について多くの対応をしてきています。だからこそ、その組織が存続している訳です。
ところが、環境の変化がこれまでより早くなり、この変化への対応を素早くできるか否かが組織存続の重要な要素となってきた、ということです。
では、ビジネス目標を達成するたにどのような対応を、どうやって進めることができるでしょうか。
組織のガバナンスやカルチャーを含めて変革を必要としている、達成目標のマイルストーンがある、そのような場合には、変革のためのプロジェクトが立ち上がることでしょう。
課題解決型プロジェクトでの「アジャイル開発」は開発者中心、システム使用者視点の改善を繰り返すために、機能リリースをスコープとした反復を計画します。
一方、ビジネス的な意味での「アジリティ」を追求するプロジェクトの場合は、もう少し広い範囲での反復の計画が必要になります。
「価値創成型プロジェクト」のプロジェクト管理
DXプロジェクトは、組織としての「ビジネス価値」追求のために必要な急激な環境変化への対応を「テクノロジー」を活用して実現するものであり、「価値創成型プロジェクト」と言えるでしょう。
デジタルトランスフォーメーション(DX: Digital Transformation)は、「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」こと(2004年にエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念)です。
反復計画の対象
組織経営上の「ビジネス価値」は多種多様です。
それぞれのDXプロジェクトで、組織において「ビジネス価値」が何であるか、「ユーザーのニーズ」の適切な理解は基本中の基本となります。
言語化された顕在的ニーズの先の潜在的ニーズを探り最適解を考え抜くプロセスが必要です。
つまり、「課題解決型プロジェクト」が顕在的ニーズ視点の反復計画であるのに対して、「価値創成型プロジェクト」は潜在的ニーズ視点の反復計画が必要なのです。
「課題解決型プロジェクト」では、顕在化しているニーズを基に開発者中心に反復を繰り返し機能リリースをしていきますので、反復の過程でユーザーの検証の結果、改善できることは目的範囲内(例えば、支店端末で実施できていた機能をスマートフォン上で実現するという目的の範囲のみ)であることを想定しています。
「価値創成型プロジェクト」の場合、潜在的ニーズへの対応をしていきますので、あらたな顧客ニーズが発見されるということは想定の範囲内です。
例えば、利用者はあるサービスを利用する際の利便性向上だけでなく、他のサービスを同時に利用することを望んでいることが明らかになる、などです。あるいは、機能面より実は顧客ロイヤリティ(Loyalty)視点での改善が必要だったことが発見される、などもあるかもしれません。
発見されたあらたな顧客ニーズを実現するためには、システム連携機能の開発が必要かもしれませんし、規約の見直しが必要かもしれません。ブランディングの立て直しや広告媒体選択の戦略に課題があるかもしれません。
ニーズを実現するための反復計画には、複数の組織の関わり、判断プロセス等が含まれるようにします。組織経営上の「ビジネス価値」実現には、関与する組織や役割を持った人物や影響を受ける業務の範囲は広く、売上額や利益率、市場拡大、顧客満足度、対応のための必要コストの定量化や分析作業も必要です。
組織資源の活用、ビジネス判断という視点から経営層の関与の重要性が見てとれると思います。
DXプロジェクトに話を戻しますと、急激な環境変化への対応を「テクノロジー」を活用して実現プロジェクトですので、関わる組織や判断者は「ビジネス価値」が何であるか、「ユーザーのニーズ」の適切な理解に加え「テクノロジー」適用の判断が必要であるということが特徴的であると言えます。
相応のプロジェクトチーム体制
「価値創成型プロジェクト」の運営には、ニーズの徹底的な追求や新たな概念の定義などの対応が想定され、ステークホルダー(利害関係者)は多様で影響度も複雑になります。
イノベーション創出手法の一つである「デザイン思考(Design Thinking)」では、ユーザーの言葉の鵜呑みではなく、ユーザーが抱く感情に共感(Empathise)するところまで深く入り込み潜在的ニーズを徹底的に検証します。また、概念化したことが確認できる試作品を作り、ユーザーのフィードバックをもらいながら課題点を浮き彫りにして行くことが重要となります。
このようなプロジェクトを計画し、適正に運営していくためには、専門的な知識やスキルを保有する相応のプロジェクトチーム体制が必要となることは容易に想像できるかと思います。
昨今、DXプロジェクト推進ができない、DX人材不足と、メディア上で賑やかですが、このような背景があって何か難しいことのように捉えている節もあります。
ですが、本質を理解すれば、いたずらに不安がる必要は無いと考えます。
自組織にとって必要な「ビジネス価値」に向き合うことです。その組織に応じた計画で、本当に不足している技術や人材を見極め、その上で適切なプロジェクト体制を構築すれば良いのです。
つまり、組織経営者が現場に丸投げでは難しい、というだけなのです。
・・・とはいえ、「いやいや、これが難しいから困っているのよ」というご意見、それもあると思います。
こちらに関してはまた別の機会に書けたら良いな、と思っています。
デザイン思考適用時の考慮点
デザイン思考を適用した際に、参加者の想定していなかった潜在ニーズが発見されることがあります。”アハ体験”というと伝わりやすいでしょうか。この参加者の肯定的な感情はプロジェクトをスムーズに進めることにも役立つのです。
一方で、デザイン思考を適用したのに意外性の無い結果だと感じる場合もあります。
実はこれは大きな問題ではありません。斬新なアイディアや大きなインパクトを創出することがプロジェクトの目的ではありません。ユーザーの感情に共感したのか、動く試作品で検証を繰り返したのか、いかにユーザーが気づいていない潜在的ニーズの発見に焦点をあてて進めたか、ということが重要なのです。
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以上です。お読みいただきありがとうございました。
この記事では、ビジネス的な「アジリティ」を追求する「価値創成型プロジェクト」について書きました。
課題解決型プロジェクト:アジャイルにもいろいろあるシリーズ(その1)もご参照ください。