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眠りは深く濃く、それゆえか反動が劇的で、縮めたバネが飛び上がるように覚醒がいきなり眠りの幕を破る。ボクサーパンツからその先が顔を出すみたいにして、むくりと起き上がり、意識が現実を覗きにかかる。その目はすでに冴えわたっていた。
毎朝がそのようにして始まる。
時間が扇状に広がっていた時代ならもう一度ふとんを被り直し、顔を出したその根本から指先を数度に渡り往来させていたかもしれない。だが時間は盛りをとうに過ぎ、ことのあとのように項垂れてしまっている。先は細く、閉じていこうとしている。
こんな朝は段取りを組み替えて本でも読んでみようかという気になって、枕元に置いたはずの読みかけに手を伸ばす。案の定、あった。本はいきりたつように固く分厚い実用書。
実用は人を生かすため。生かされるならまだ生きなければならない導きの証。しおりを頼りに道行きの途中で一息ついた経過点までこぎつくと、文字列がこれから始まる時間へ手を引こうとした。
この先の未来は明るいのだろうか。手は導きのものなのだろうか。それでも進むしかない。先細ったはずの道を内側からぐいと押し広げ、行き止まるかもしれない奥へと挿し入った。
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