
おいらの本分。
猫カフェ勤務の帰り道、おいらは一匹夜道の家路を急いでいた。新米猫の教育で残業しちまったものだから、いつもより遅い時間帯になっちゃって、それが災いしたのか、不安は形となって現れる。
ひたひたひた。
誰かがおいらのあとをつけてくる。
ひたひたひた。
振り向いて後ろを確かめても、誰もいない。
スタスタスタ。ひたひたひたを振り切ろうと歩幅を広く強くする。これで振り切れなくてもまだ加速の余地はある。
ひたひたひた。
そのひたひたひたが不気味だった。おいらが歩く速度を上げても、涼しい顔でひたひたひたがついてくる。
たったったったっ。速度を一段上げてみた。なのにひたひたひたはリズムを上げずに平然とおいらについてきた。
見えない恐怖は見える恐怖と違ってタチが悪い。怖さが肌から染み込んで、体の内側から恐ろしさを増殖し始める。
ぞわぞわぞわ。恐怖は弾けるポップコーンだった。一気に、かましていたゆとりを押し潰す。ぞっと心が悲鳴をあげる。すると途端に猫の毛総立ち、感情が恐怖色一色に染まった。
ビューン。最後の手段、全速力でその場を逃れる。その早技、ミレニアム・ファルコンの光速移動のごとく。これまでこの手で逃げきれなかったことはない。あとは安全地帯に逃げ込んで身を潜ませていればいい。怖さが通り過ぎてくれるまで。
怖いもの見たさは拭い切れるものじゃないが、恐怖は嫌い。猫ってそういう生き物なんだ。知ってた?
「もちろん」
誰? 今、おいらの後ろで返事をしたのは?
