夢を見た。黒澤明作品の続きだった。俺以外に観たものはいない。幻の1編だ。
月のヤツ、獲れないように遠くに投げ飛ばしたものだから、得意のひとっ跳ねでヤツの鼻を明かしてやろうと思ったのに、重力はまとわりつく社会のしがらみ同然からだにまとわりついてきた。
うまくいくはずだったのに、大気圏は俺をしっかり掴んできやがった。
なにくそ、こんなもの。
放られた魚、あっかんべぇをしていやがる。まさか魚に馬鹿にされるなんて、一生の不覚。
こんなことなら地球防衛軍に早めに根回ししとくんだったぜ。入隊指していりゃ、宇宙までひとっ飛び。今となっては……後の祭りなんだがな。
後悔先に立たずって、このことを言うんだろうな。
穴に、あ、足がかからない。もう少しだってのに。
夢は現実に届かぬまま幕を閉じることになる。
悔しいかって?
いんや。悔しくない。
負け惜しみなんかじゃないよ。俺は、夢が好きなんだ。
夢ってやつは、叶ったとたんに消えちまう。だろ? だから追いかけているうちが好きなんだ。