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小路地の先のまったり時間。

 車で、オートバイで、徒歩で、ときどき路地に足を向ける。行き止まることもあるし、すんなり抜けて印象に残らないこともある。だけどいつだって期待は忘れない。思わぬ拾い物をしてみたいのだ。
 
 路地の先に『足湯カフェ』の看板があった。
 かつて看板に誘われて路地の奥まで入り込んだ挙句、廃業後の名残りだったことがあった。もしかしてその二の舞か? 不安はよぎるも、はなから当たるとは思っちゃいない期待なのだ。はずれても失うものはない。
 路地に掲げられた看板に導かれるまま、さらに小路地に入っていく。細分化された道の先は、いよいよ感を盛り上げてくる。当たるか、はずれるか。漠然とした路地入りと違って、誘導された小路地には否が応でも結果を突きつけるだけの権利がある。
 
 それでも期待だけは膨らんでいく。妄想も暴走し始めた。なんてたって足湯カフェなんだもの。ぬくぬくの温泉に、冷えたコーヒー。これしかない。
 
 ざく、ざく。
 小路地の小砂利を踏み締めて、目前の目的地を目指す。
 お店に人の気配は?
 かすかにある。
 声をかけると、営業中だという。
 客は、ほかに、いない。閑古鳥が鳴くから今日は早めに店じまい、と言われてもパーフェクトな納得をもって踵を返すことができそうな雰囲気だったから、仮に断られても落胆しなかっただろう。
 
 だけどひとつ、膨らんだ期待が次のひと言でしぼんでしまった。
「今週から冷泉に切り替えたんです。それでもいですか?」
 
 確かに気温は本格的夏に向けて上昇中ではある。だけど、地理的要因からして、ちいとばっかし早いのと違う?
 それに、注文にだって影響が出てくる。
 温だと冷だが、冷なら温だ。だが、微妙に冷でも冷かもしれない。
「足をつけてからの注文でもいいですか?」
 了承を得て、冷泉に足をつける。結果、冷には温で、とあたたかいコーヒーを注文することになった。
 
 その後、客が入ってきた。閑古鳥の代わりに、山の斜面でカッコーと鶯が人を小馬鹿にしたような長閑な声で歌ってた。


 
 
 

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