虚血性心疾患患者におけるAllopurinolと通常治療の比較試験(ALL-HEART試験)
はじめに
無症候性の高尿酸血症の治療導入(up to date)
尿酸値>8mg/dLの場合、考慮される治療について
・生活習慣の改善(減量やアルコール・糖摂取量を控えること、運動)
・尿酸値を下げる効果のある薬剤(例として、高脂血症に対するフェノフィブラートや高血圧に対するロサルタン/Ca blocker)
・一般的にアロプリノールを含めた高尿酸血症治療薬は推奨していない
・著明な高尿酸血症が持続する場合(>13mg/dL)は生活習慣の改善だけでなく、アロプリノールやフェブキソスタットの使用を考慮すべき
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン
今回の論文
ALL-HEART試験とは、痛風の既往のない60歳以上の虚血性心疾患患者さんを対象として、脳心血管疾患のイベントを主要評価項目として、アロプリノール治療群と通常治療群とを比較した、前向きランダム化試験比較試験です。
背景
尿酸降下薬は尿酸に対する作用だけでなく、高尿酸血症を呈さない例における心血管系イベント抑制作用も示唆されている。
しかし、有用性を示唆しているのは観察研究や小規模ランダム化比較試験(RCT)であり、大規模RCTの必要性が指摘されていた。
ALL-HEART試験は、痛風の既往はないが虚血性心疾患を有する患者において、アロプリノール療法が心血管系の転帰を改善するかどうかを検討することを目的とした試験である。
方法
対象
痛風診断歴のない60歳以上で、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症、冠動脈造影で狭窄)の既往のある患者
<除外>
・中等度~重度の腎障害(eGFR>60mL/分/1-73m²)
・中等度から重度の心不全、重大な肝疾患
・いずれかの薬剤による重度の皮膚反応の既往
・過去5年以内の重大な悪性腫瘍の既往
試験デザイン
・無作為化比較試験
・非盲検
・腎機能が正常(eGFR≥60)な患者には初めの2週間は1日100㎎、次の2週間は1日300㎎、その後は1日600㎎、慢性腎臓病を認める(eGFR 30-59)患者には初めの2週間は1日100㎎、その後は1日300㎎のアロプリノール内服が行われた
評価項目
主要評価項目
非致命的心筋梗塞、非致命的脳卒中または心血管死の複合心血管事象
副次評価項目
非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心血管死、全死亡、急性冠症候群による入院、冠動脈再灌流、急性冠症候群または冠動脈再灌流による入院、心不全による入院、すべての心血管入院、QOL、費用対効果
結果
5721人(アロプリノール群2853人と通常ケア群2868人)を対象として非盲検下で平均4.8年間観察された。
アロプリノール群:
平均年齢 71.9歳、男性76.0%、白人 99.2%、アジア人 0.5%
Base lineの血清尿酸値:0.35mmol/L(5.9 mg/dL)
通常治療群:
平均年齢72.0歳、男性75.1%、白人 99.2%、アジア人 0.5%
Base lineの血清尿酸値:0.34mmol/L(5.7 mg/dL)
主要評価項目および副次評価項目のいずれについても、無作為化治療群間の差は認められなかった。
考察
近年の報告
①CARES試験:痛風で心血管疾患が確立している患者において、フェブキソスタットは主要評価項目(心血管疾患による死亡、心筋梗塞、脳卒中、緊急再灌流を伴う不安定狭心症の複合)においてアロプリノールに対して非劣性であったが、副次評価項目である心血管系有害事象、全死亡、心血管系死亡の発生率はフェブキソスタットがアロプリノールより有意に高い値を示した。
②FAST試験:フェブキソスタットによる心血管リスクの増加は認められず、フェブキソスタット群ではアロプリノール群に比べ全死亡および心血管死亡の割合が少なかった。
③日本の65歳以上の無症候性高尿酸血症で脳・心血管・腎イベントのリスクを有する患者1070人を対象にしたフェブキソスタット療法と対照薬の無作為比較試験(Febuxostat for Cerebral and Cardiorenovascular Events Prevention Study:FREED)では、フェブキソスタット群で主要複合心疾患エンドポイントの低下が認められたが、これは他の心血管エンドポイントへの影響よりも腎機能障害の進行抑制によってもたらされたものであった。
④無症候性高尿酸血症患者483名を対象に、フェブキソスタット療法と非薬物療法である生活習慣の改善を対照群として日本で行われた試験では、2年間の治療期間における頸動脈動脈硬化の進行(頸動脈内膜厚)に影響は認められなかった。
試験の制限
・無作為化治療の遵守状況は6週目の来院時および年1回の自己申告制
・痛風の既往がある患者は外されており、血清尿酸値が最も高い患者をはずした可能性
・アロプリノール中止の閾値が低い
・白人に偏っている
結論
虚血性心疾患患者において、アロプリノール600mg/日投与は、通常の治療と比較して心血管予後を改善せず。虚血性心疾患患者における心血管イベントの二次予防としては推奨されない。
My Comment
本論文ではあくまでも虚血性心疾患の既往がある方が対象であり、痛風・高尿酸血症の方が対象の論文ではないことに注意が必要です。対象者のベースラインの尿酸値は高くなく、またアロプリノール投与群では脱落率が57.4%とかなり多いので、解釈には注意が必要かと思いました。
実際、尿酸値が高い人には尿酸降下薬を検討しますけども、そうでない人にはあまり投与を検討したことがないので、そもそも読むべき論文を間違えた気がします…笑