変化するコロナ禍の遠隔介護で知るイチローさん(父89歳)とテルコさん(母90 歳)の夫婦のあれこれ VOL1
イチローさん(父89歳)とテルコさん(母90 歳)夫婦は、娘のわたしからみると決して仲良しの夫婦ではなかった。イチローさんがテルコさんに手をあげることもあったし、母の手を引かれて母の実家に行った記憶もあるくらい。
ただ、おかしな夫婦で、確かイチローさんが70歳くらいの時に、テルコさんに『契約結婚にかえようと思うんじゃ。一年ごとに契約するんじゃ』と言っていた。さすが、昭和ヒトケタ男、そこには、相談はなく決意表明だけ。で、テルコさんは大反対。イチローさんのことが愛おしいからかと思ったら、小さい声でわたしに『いまそんなことしたら、損じゃろう』とそろばんを弾いていて、わたしは大笑いした覚えがある
そんなふたりが、90代となる今、なぜだか、周りの人も驚く形になっている。「あんたとこのお父さんのお母さんへの「献身的愛」が評判になっとるじゃ」と家族のかかりつけのお医者さんに言われた。施設に行っても「すげえなあ、イチローさんとテルコさん」と。
何度も言うが、娘のわたしには、仲の良い夫婦と思っていなかったので、それが今になって芽生えた『夫婦愛』なのか、『生きていくための知恵』なのか全くわからない。ただ、ふたりは結婚して65年。夫婦の在り方は、子どもの目からみてもかなり変わってきてはいる。特にふたりが80代になってから、
母→認知がすすみ→転倒→施設に入る
父→老老介護を決意→挫折→母の施設に自分も入る
という流れの中での変化は大きい。
大きく舵を切ったのは、テルコさんが認知症が進む中で彼女の「ライフライン」はすべてイチローさんにかかってきた頃からだ。昭和ひとけたのイチローさん、食事も作ったことがないし、家事全般できなかった。が、そこは「自己責任」が座右の銘の人、料理教室に行きながら、何とかごはんは作れるようになっていく。掃除はしなくても死にはしない、洗濯は洗濯機がしてくれる、洗物はあまりきれいにはできないがこれも死ぬことはない。娘から見たら色々突っ込みどころはあるが、大切なのはイチローさんがやる気をなくさないことだ。おむつの世話もイチローさんの担当だ。色々消臭剤を使っても家の中はおむつ臭くなる。が、それも年を重ねた二人の臭覚の鈍感力で切り抜ける。娘の私がいる時は「家事は休ませてもらうわあ」と言うが、それ以外の時はテルコさんの世話を放棄しない。
「テルコさんとこの家で最後まで暮らす」
その頃イチローさんがよく言っていたのがこの言葉。これが大きな生きる目標にだんだんなっていったような気がする。
と言って、仲良しという訳でもない。認知症と耳が遠くなったテルコさんとのコミュニケーションは中々うまくできなくなったことで、イチローさんはいらだっていた。イチローさんが好きな旅行にもテルコさんをおいて行けなくなったことも関係すると思う。娘の私がみるから大丈夫だと言っても、自分がいなくちゃ、やらなくちゃ、と頑なになっていた。
テルコさんが認知症がすすみ、イチローさんの負担を小さくしようとテルコさんを少しでも離そうと、テルコさんにディケアに行くようにしてもらったり、ショートスティをお願いしたが、最初は中々首を縦に振ってもらえなかった。そんなテルコさんをただのわがままと思っていたが、ディケアに行くことがこんなに不安だったんだと知るのは、こんなメモを見つけてからだ。
娘の立場からすると、イチローさんを少しでも助けるためには必至の策だったのだけど、テルコさんの不安がこんなに大きかったとは、その頃はわかってなかった。この気持ちに寄り添えなかったことは、少し悔やむ。
自分の中でも認知症への誤解があり、認知症になったら何もかもわからなくなると思っていたが、そういうわけでなく、はっきりしている時とそうでない時の差が大きいようだ。さらに、テルコさんはレビー小体型認知症なので、幻聴、幻想があり、毎日「どろぼうがいる」と家の外に出て見張りをする。歩行もうまくできない時期だったから、どんなに注意しても外に出て警備(笑)をして、その度に転倒し、救急車で運ばれることもしばしあった。
テルコさんが大好きな「自分の家」を守らなくては、という気持ちがそうさせたのだとは思うけど、それは、イチローさんの大きなストレスにもなっていたのは間違いない。
そんな時にテルコさんはメモみたいな手紙を書いていたのだ。認知症ではあるが、その頃はまだ、こうやって文字はかけていたんだな。ただ、この手紙もイチローさんに見せたわけでなく、私が掃除をした時にベットの隙間にあったのを見つけたもので、たぶん、書いたことも忘れていたみたい。
テルコさんは、自分の気持ちを言語化して話すことがどんどん難しくなっていき、それに苛立ち、理解できないイチローさんという構図の中で、どうやって、二人は10年の間にどう関係を深めていったのか、、、
イチローさんから聞く話は、次回に。
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