思い出の箱
またひとつ
思い出の箱を開ける鍵をもらった
母の入院中、祖父母の家
何もない神様と仏様のお部屋
持ってきた絵本は全部読んだ
お絵描きも積み木も
飽きるほどあそんだ
窓側に転がって
ぼーっとする
今日はあの猫も
近所のお姉ちゃんも姿をみせない
空は青くて
雲はゆっくりと形を変えながら
どこまでも進むのに
私は家の中
いつも通りの昼
何かないかなぁ
面白いものを探そうと
あちらこちらの扉や引き出しを
開けては閉める
花札、聴診器、青くて透明な名刺入れ
どこかのトンネルの石
ジャックのような人と葡萄の装飾が施された
両手でも握りきれないワインオープナー
古い腕時計、扇子、異国の食器
古いアルバム、形見の小さなお人形、
ぽよぽよとした水時計
レコードのジャケット
大きな木刀、弓と矢
小さな世界を泳ぎ回る
青と黄色の熱帯魚
水草と沈没船、水中トンネルの世界で
私も泳ぎまわりたい
沈んだビー玉が宝物のようだった
そんなことを考えていると
あっという間に宝物探しは終わる
そう思って歩き回っていると、
祖母が窓際で編み物をはじめていた
近くにいくと、
白い和紙で包まれた小さな入れ物があった
表には長い黒髪の着物を重ねた女性が
描かれている
パカっと開くと
中には色とりどりのボタンが
入っていた
夜光貝、ガラス細工
小さな宝石のように光るもの
美しい模様がいくつも
太陽の光にキラキラとしていた
そうやって眺めている内に
祖母は魔法のように
毛糸でカタチを編み上げていく
できあがったモノたちには
いつの間にか
キラキラとしたボタンがつけられていた
丁寧に作られたものは
使うよりも
じっと眺めるほうが楽しかった
静かにゆっくりと
時間が流れていた頃
暇を持て余していたあの頃
今となってはうらやましいほど
大人になって良かったことは
あのキラキラしたもの達の正体が
わかったこと
私も祖母のように
宝物を集めようかな
そんなことをふと思った夜
絵 追究さま