若さとスイッチ
「音、どうしよう。私、N先生が好き」
講義の終わり、突然の告白に驚く
「いけんよね..」
「いいんじゃない?..大学生だし」
「でも、講義以外接点ないし」
カチッと何かを押された
接点ねぇ..
「じゃあさ、私質問あるからついてきてよ」
教授達の研究室がある別棟
いつものようにエレベーターにのる
「え、誰のとこに質問いくの?」
「誰って?さっきN先生、
質問ある人 いつでも来てって言ってたよね」
「え?」
チーン
慣れた廊下をいつもとは
反対方向に歩いて行く
"在室"
「音、待って..」
コンコン
「はーい」
ガチャ
「おつかれ様です。
先生、質問あるんですけど今いいですか?」
「どうぞ」
嬉しそうにN先生は笑った
実際、途中でウトウトしてしまう私は
聞きたいことが山のようにあったし
質問にくるのもいつものことだった
ひと通り聞きたいことは聞けた
「ごめんね。
私、H先生のとこに用事あって、
終わったら迎えに来て。
先生、ありがとうございました」
キョトンとしている友達を置いて、
N先生の研究室を後にした
コンコンコン
いつものドアをノックする
いつ来ても、夜のような
本に埋め尽くされた珈琲の香りがする部屋
「こんばんは。今日はどうしたのかな?」
「明日の内容でお聞きしたいことがあって..
今よろしいですか?」
「どうぞ、珈琲淹れるから少し待ってて」
この部屋に来ると落ち着く
残念なことに先生はもうすぐ定年
1時間くらい話した後、
ノックが聞こえた
嬉しそうな顔が、
ひょっこりと開いたドアの隙間からみえた
「先生、ありがとうございました。
また明日、よろしくお願いします。」
「ああ、またいつでもどうぞ」
帰り道
「音、あんたねえ」
と睨まれるけれど、
顔が緩んでいて説得力がない
一旦スイッチが入ると、
自分ではどうにもならない
「まぁ、結果オーライなんじゃない」
とりあえず、行動してみる
本当にほしいものがあった時
「待つ」ということができない
そんな頃が懐かしかった
最後に教授にもらった
本を眺めながら、
あの頃は若かったなと思った夜だった
写真 山田志穗さま