遠い夏の青

2時間半

車に揺られながら3人で岬に向かう

「あとどれくらいで着くの〜」

車酔いしたNが、
力のなくなった目で訴えている

「もうすぐそこだよ」

運転席のKは何事もないかのように
ニコニコと車を走らせる

そうこうしているうちに
その岬に辿り着いた

展望台までは
少し歩かないといけないよう

7月の真昼の陽射しが
展望台までの緑道の影を濃くしていた

陽の光が差し込む度に
前を歩くKの茶髪が
赤色に輝いていた

となりを歩くNに目をやると、
くっきりとした低い木漏れ日が
彼女の水色のTシャツに揺れていた

「そんなへっちゃらな顔して」
Nの黒い瞳が私をじっと見る

黒い瞳はよく光を映すから
光の動きがよくわかる

見上げると
キラキラ、さわさわと
木漏れ日たちが
風とともに歌っていた

蝉の声はどこか少し遠くで
聞こえていた

海風が緑道を吹き抜けて
暑さは感じない

世界には
この3人しかいないかのように
私たち以外の気配を全く感じなかった

それは神秘的でもあり
少し不気味でもあった

海風がいっそう
強く通り抜けた瞬間

私たちは展望台に出ていた

開けた海
水平線の丸みがみえる

バカみたいに叫ぶ私とNを
Kは笑いながら見守っていた

その叫びは
青い海と空に飲み込まれていく

波はとても穏やかで、
音ひとつ聞こえない

思った以上に
ここは海から高いところにある

夢の中のように
全ての音が遠ざかった

このだだっ広い
ひろがりに
私たち意外誰もいない

まるで
無人島に漂着したかのように
私たちは静かな岬の空間の中に
包まれていた