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トンネル村

あれはいつかの夏休み

近所のおばさんに連れられて行った
涼しい川辺の村

見渡す限り山と田んぼ、川しかない

おばさんの手をぎゅっと握って
小さな暗いトンネルを抜ける

真っ暗なトンネルの奥に
緑の光がみえている

森の中の、
小さな広場のような場所に出た

広場を囲うようにある木々は
すっかり緑色なのに
地面には枯れ葉がたくさん落ちて、
ふかふかしている

ここは、おばさんの弟がひとりで
管理をしているらしい

そうめん流しや小さな小屋、
丸木のテーブルやブランコ

静かな森の中に
こんな冒険にあふれた
場所があるなんて

いつも過ごしている場所とは
別世界だった

山の囲まれた場所にあるせいだろうか?

外にいるのに
虫たちの声も私も、
1つ大きな部屋にいるような
鍋底にいるような
不思議な感覚がした

私はそこを「トンネル村」と呼んだ

おじさんが旅立った後、
あの場所に行くことはなくなった

今もひっそりと、トンネルの向こうに
あの場所はあるのだろうか