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続 淡々と綴る、ひとり旅

夕暮れの城下を後にして
電車で近くの街の
宿へ向かう

着いた頃には
すっかり陽が落ちていた

かつて、
港町として栄えたこの街

この商店街は、故郷のそれと似て
どこか静かに寂れている

それがある種の味を出しているし
少なくともこの感じが、私は好きだ

商店街の一角の
空き店舗を改装したその宿のドアを開けると
カフェ & BARのような場所が
そこにあった

カウンターから
同い年くらいの男性が出てきた

「こんばんは。遅くなりました」

「お待ちしてました。
 お部屋にご案内しますね」

高さ4m近くあるような天井
コンクリートの壁
共同のキッチン、シャワー、ベットルーム

あちこちに見える改装の跡

「ここ、僕らが全部改装したんですよ」

へー、センスあるなぁ
色づかい、装飾、配置

一見バラバラに思えるものを
喧嘩させないで合わせる技

「ネット記事で見かけて
 気になって来てみたんです。想像以上ですね」

「あれ、ご覧になったんですね。
  ありがとうございます」

少し照れくさそうに笑っているけれど
素人でここまでできるのは、すごい

「晩御飯何かお作りしましょうか?」

「ありがとうございます。
 今夜はお祭りのようなので、
 外で食べてきますよ」

個室に通されると、
コンクリートの天井を覆うように
幕が垂らされていた

窓のつくりは、いかにも店舗という感じで
曇りガラスに覆われていて
夜の色だけが見えていた

「楽しんできてくださいね」
爽やかな声をあとに、外に出ると
太鼓の音が鳴り響いていた

横を走り抜ける子供たちの背中に
金魚帯が揺れていた

人が流れる方向へ歩いて行く

たこ焼きと焼き鳥、いちご飴、ラムネ
いかにもお祭りといった食べ物を買って
椅子に座る

この規模だと混雑もなくて楽だ

祭りの夜だからか、
見知った顔の中で旅人がいても
誰も気にしない

誰しもが踊って、歌って、笑って
笛と太鼓が夜を包んで

なんて自由な時なんだろう

知らない街の夜を思い切り満喫して
宿に戻りシャワーを浴びる

シャワールームをでると
青い目の男性がカレーを作りながら
アジア系の女性と話していた

ドミトリーってこんな感じなんだなー
知らない世界を垣間見ると
なんだか楽しい

部屋に戻ってゆっくりとする
ふと、ケータイをみると

わぁー。
LINE、メール、着歴。

みなさんごめん
また、明日ね


翌朝
目が覚めると、曇りガラスの向こうは
すっかり明るかった

「おはようございます。良く眠れましたか?」

「ええ、もうぐっすり。
   ちょっと散歩に出てきます」

「では、お戻りになったら朝食をどうぞ」

商店街を抜けて、川沿いを歩き
港へ向かう

古い街並みが朝日に輝いていた

ここは寅さんのロケ地にもなったらしい

港に着くと、紫のブーゲンビリアが
美しく潮風に揺れていた

いっとき海を眺めたら
昨夜の通知に一件ずつ返事をする

写真をつければ
みんな安心するだろう

たった1日連絡がとれないだけで
こんなに多ごとなのだ

色んなしがらみから逃れて
自由になるって案外むずかしい

だけど、
ひとりでいる時に思い浮かぶもの
おもいを馳せる時間

それが何より大切な気がしていた


写真 ななみ様