冬の夜、森の駅
あれは
いつかの12月
今夜は山の中にポツンと住む
友達の家へお泊まり
学校が終わってから
家で着替えて、支度する
18時半過ぎの電車に乗る予定
家を出ると、
外はすっかり夜に包まれていた
駅に着くと
めずらしく電車の遅れの表示が出ていた
仕方なく、駅の待合でココアを飲む
同じように電車を待つ人が
それぞれ時間を過ごしていた
夜の暗さは変わらないはずなのに
冬の夜は
どうしてこう暗く感じるんだろう
窓の外の街の明かりを眺めながら
そんなことを思う
気がついたら19時をまわっていた
臨時のバスが出るらしく
友達にメールした
ぞろぞろと乗り込む人々
しばらくすると
バスは明るい街を抜けて
街灯の少ない田舎の山道をのぼっていく
目的の駅までは1時間くらい
窓ガラスには車内の景色が映っていた
バスの中は
冬の夜にのまれたように
静かだった
駅に着いた時、そこで降りたのは
老人と私だけだった
小さな駅舎がポツリと照らされている
肺に吸い込む空気が冷たい
山奥だからか、なおさら冷えて感じた
老人は待っていた車に乗り込んで
いなくなってしまった
小さな駅で、見渡す限り民家はない
ひとりは心細いな
その時、友達からメールが届いた
あれ?15分前に送られてる
メールを開くと、
この次の駅で降りてほしい
と書いてある
え、もう降りちゃった
慌てて友達にメールしようとするが圏外
一瞬、身体が凍りついたかと思うと
今度はかっと熱くなった
心臓がどきどきしている
こうなったら仕方がないと
駅のまわりを歩くけど
明かりがついている建物が見当たらない
ここで一晩とか、無理だよ..
ちょうどその時、
一台の車があらわれて
路肩に停まった
何も考えず、
わらにもすがる思いで駆け寄って
助手席のドアをトントンとする
運転席の男の人は
かなりびっくりしていたが、
すぐに窓を開けてくれた
「すみません..。
この辺でケータイ使えるのどこですか?」
事情を説明すると
「俺も分かんないけど、ひとまず乗りなよ」
人神様に会った気持ちだった
2人で電波を受信できる場所を探す
「そういえば、この近くに
ドライブインありませんでしたか?」
「あー!あそこならいけるかもね」
懐かしいドライブインは
開けた丘の上にあった
つぶれてしまったのか、街灯ひとつない
ようやく電波が入ったから
急いで友達にメールする
( 大丈夫?そこで待っててね)
すぐに返信がきた
友達が来るまで
その人は待っていてくれた
「お姉ちゃん、あんた本当に運がよかったね。
俺で良かったよ。もうヒッチハイクなんて
しちゃダメだからね」
咄嗟に言われたひとことにハッとした
考えなしに危ないことをしてたのを自覚して、
頬が熱くなる
「本当にありがとうございました」
友達の家の車が着いて、
その人にお礼をいう
彼は手を振りながら、
暗い山道へ帰って行った
友達の車に乗ると、安堵して
この夜あったことを
笑いながら話した
山の中の彼女の家に着くと
暖かい光がみえた
夜空を見上げると
落ちてきそうなほど
星たちが瞬いていた
絵 おくちはる様
台風の停電の暗闇で思い出した記憶
あれからヒッチハイクをしたことは一度もない..