君から見えた景色
あれは、卒業式の後のホームルームの最中。
廊下を歩く足音がパタパタと聞こえて振り返る。
そこに君がいた。
ガラス越しに通り過ぎていく君の視線が、はじめて私からそらされず、ただ見つめあっていた。
大切なことは何も伝えなかった。
またいつか、きっと会えると信じていたから。
二十歳の初春。あつまる同級生の中に、君を探していた。今ならきっと、笑い話で色んなことを話せる気がした。
だけど、君の姿を見つけることはなかった。
翌月、君が死を選んだ、その事実だけが伝えられた。
君が過ごした家へ、君に会いに行った。
家族から教わった君の話。そこには、私の知らない君がいた。
だけど、心の底で感じ続けていた君が、確かにそこにいた。写真に残る、懐かしくいとおしい笑顔。
もし、君にもう一度会えたのなら、私から見えていた君を伝えたい。そして、君から見えていた私を知りたい。
君のいなくなった世界は相変わらず進んでいく。
伝えたかったことは今も胸に留まったまま。
姿のみえない君に伝わっていたりするのだろうか。
もう君はいない。
何度も自分に言い聞かせる。
君の記憶と君への想いだけが、
私の記憶に留まり続ける。
終わりが来たとき、今度こそ君に話そう。
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あとがき
過ぎ去った日の記憶は、遠くなればなるほど、断片的になっていく。それでも、自分が生きている限り確かに残っている。
私が死んでしまったら、私だけがみた誰かの記憶は消えてしまう。だから、ここに残しておこう。私がみていた、君が生きていた記憶。