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あの渦潮の海を眺める丘で

まだ寒さが残る地上を
柔らかな陽射しがあたためている

桜が散りこぼれる
終わりの見えない階段を
ひとり上る

一段、また一段と
桜の絨毯が敷き詰められていく

すれ違う人はみな
穏やかに会釈をする

階段を上りきると、一面の
薄紅と薄青の世界にたどり着いた

ほのかに香る花風に
あおられるように振り向く

そこには
渦潮の激流を持つ
あの海があった

遠目には穏やかだけれど
近づくほどにその姿をあらわす

それはまるで
この丘に立ち続ける
彼のよう

花と酒とこの地を愛し
夜にはいつも酔っている

だけど、心はいつも醒めている

花を求めているようで
心の奥底では
あの激流を求めていたのか

あの激流に
彼を導びくことができたのは
この世でただひとり

彼とわたしに
共通点があったとしたなら
あの人を慕う者
それだけだ

その視線の先に
ずっと見つめていた

彼はあの人に会えただろうか