屋上から
屋上から桜をみる
そんなささやかな
願いを叶えるために
文集係になった
屋上でタバコを吸う人がいるから
出入りは厳禁
だから、
文集の写真を撮りたい
そう言って先生に屋上の鍵を開けてもらう
扉を開けて外に出ると
冬の空が近かった
おそるおそる囲いに近づく
あの道もあの場所も
ここからみると
とても小さい
この小さな世界が
三年間の全てだった
ここからは、
思い出がよく見渡せる
ひょっこりついて来た誰かさんも、
汗と涙を落としたグラウンドを
見つめていた
レンズ越しに
その背中と空をとらえる
記憶を呼び起こしていると
懐かしさが溢れてきた
慣れてきたから、
囲いを一段のぼってみる
うわぁ。
思ったよりも地面は近いけど、
落ちたら終わりだな
教室の横のイチョウの頭
あまりの高さに
見上げたことしかなかったけど
はじめて横並びになれた気がした
「音葉〜、おりなさい」
静かに制される
桜が咲くまであと少し
後悔ないように過ごそう
「先生、卒業式の日は
また登らせてね」
約束をとりつけて
春がくるのをそっと待つ
絵 モモリ スウさま
坂道のアポロンを読んで
ひっぱり出された屋上の記憶
揺れたり、強風にあおられない
高いところは好きだ
この街の春は少し早い
卒業式の日
屋上からみた
桜色の景色を忘れない