見出し画像

木漏れ日のなかで 〜お題は「1秒の恋」

初夏

スケッチ大会の季節がやってきた

今年はあの公園を選んだ
彼はどこを選んだだろう?

友達と恋バナをしながら
1時間くらい歩くと
あっという間に公園に着いた

小さな頃から慣れ親しんだそこは
潮の香りと工場地帯の匂いが
混ざる場所

あ、彼がいた。
目が合うとニッコリと手を振っている

一緒に描くと集中できないだろうな

先輩たちの視線をかわしながら、
彼のもとにかけ寄る

「ねぇ、お昼一緒に食べよっか。
  あそこのベンチで待ち合わせね。」

公園の噴水と海が重なり合う
昔から好きな角度

うん。ここから描こう。

工場の煙が少しくすんだような空に
噴水が降り注いだ池に映る
公園の緑

ここをデザインした人が置いたのであろう
巨大なオブジェ

彼がいるこの時を絵に
おさめられるなんて
なんだか幸せだ

しばらくすると先生が
スケッチの場所をカメラにおさめてくれた
「そろそろお弁当の時間だよ」

あっという間にお昼がきた

待ち合わせのベンチで、
お弁当を開かずに彼は待っていた

「お待たせ。食べててよかったのに。」

彼の横に座ると、
いつもの他愛のない話が始まる

緑の影が、
私たちとお弁当の上に揺れていた

「卵焼きって、家でそれぞれ違って
   面白いよね。」

交換しようか?
彼から思わぬ提案があったので、
私は母自慢のからあげを渡す

彼のお母さんの卵焼きは
丁寧な味と食感がした
出汁がよく効いている

わが家の卵焼きはどこか甘じょっぱくて
母の気分でマヨネーズが入っている
やっぱり違って面白い

ついでに、彼は苦手なトマトをくれた
「美味しいのに..!ありがたくいただきます。」

お昼の時間はあっという間に終わり
私たちはそれぞれの場所に戻る

いつものスケッチより、
線に迷いがない
倍速で終わってしまった

今日のこころは弾んでるな。

大好きなこの場所に
彼がいるからなんだろう

彼とみたい景色は
山のようにある

未来なんて想像もつかないものを
信じない私だけど
彼とは、そんな未来を一緒に
いられるような気がした

公園から帰る間際、
遠くにいる彼と目が合った
友だちに茶化されてすぐそらす

ほんの1秒ほどの出来事なのに、
それだけで気持ちが満たされていく

私が彼を見るとき、
彼が私を見るとき
それはどこまでも優しい時間だった

あんな初夏の風のような恋は、
きっともう二度とない

久しぶりにあの公園を散歩したら、
彼とふたりで座ったベンチが
色褪せてそこにあった

そっと座ってみる

あの日と同じ、
緑の木漏れ日がそこに揺れている

違うのは、彼がいないだけ

ふたりの思い出だけが
今も優しくそこに座っていた


PJさんの「1秒の恋」を読んで、
書いてみました🌿

PJさん、
作詞作曲「うさぎじゃんぷ」🐰💓
はねる恋の鼓動を思い出す。