絵本の読み聞かせで思いやりの力が育つ
2007年、堂野恵子らが発表した『絵本の読み聞かせが幼児の向社会性の発達に及ぼす効果』において、幼児に向社会性をテーマとする絵本を読み聞かせることで、幼児の向社会性の発達が促進されることを明らかにしました。
向社会性とは?
向社会性を簡単にいうと「人を思いやる力」です。
心理学で他の人を援助すること行動のことを「向社会的行動」と呼びます。
例えば、席を譲ったり、重そうな荷物を持っている人を手伝ったり、次に通る人のためにドアを開けておく行為などが、この「向社会的行動」に含まれています。
そして、「向社会性」は、向社会的行動をどれだけ頻繁に行おうとするのかのことを指します。
向社会性の高い人は、周りの人たちとの良好な関係を築くことができると言われています。
つまり向社会性の高い人は、社会生活に適応する力が高いと言い換えることができるでしょう。
また、向社会性が高いことで、うつや問題行動を予防したり、学業成績を高め維持する力に関係したりしているとも言われています。
この向社会性を幼少期から育成することはその後の人生において重要であることがわかるでしょう。
論文について
それでは、今回の論文について紹介していきたいと思います。
今回の研究は、保育園に通う年長児18名(以下、保育園児)とその担任の保育士(以下、保育士)を対象に調査しました。
まず最初に、向社会的行動に関係していると言われている「援助・協力」「共感・なぐさめ」「分与」の行動に関する保育園児の園での様子について調べました。
保育園児本人には、個別での質問と絵カードを使った3段階の自己評定を行い、
保育士には、それぞれの保育園児の様子を評定してもらいました。
その調査後、保育士には保育園児に「友達」をテーマとする絵本の読み聞かせを、1週間毎日実施してもらいました。
読み聞かせを行った1週間後、読み聞かせを行う前と同じ方法・内容で保育園児と保育士に調査を行いました。
その結果、「援助・協力」「共感・なぐさめ」「分与」の項目について、読み聞かせ前と読み聞かせ後の得点を比較すると、
保育園児の自己評定・保育士による他者評定の両方で、全ての項目において読み聞かせ後の得点の方が高くなっていました。
つまり、向社会性をテーマとする読み聞かせを継続的に行うことによって、向社会性の発達が促進されるということがわかりました。
また筆者らは、今回の調査は短期間で効果が実証されたので、さらに長期的に読み聞かせを行うことで、その効果はさらに高まることが期待できると言っています。
参考文献
○堂野恵子・光本容子・堂野佐俊(2007) .「絵本の読み聞かせが幼児の向社会性の発達に及ぼす効果」『日本教育心理学会総会第49回総会発表論文集』 , pp.627 .