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音ヶ関ダイアリー#3 入浴剤
今日の帰りに、スーパーで買い物をした。
シャンプーの詰め替えを買おうと、洗剤等のコーナーを歩いていると、
端の方に、入浴剤のカゴが増設されていた。
様々な種類の入浴剤が、無造作に並べられている。
きっと売れ残っているのだろう。
と思い、その場を離れようとした。
離れようとしたのだ。
だが、視界の端に、なにかとても興味をそそるものが映った。
光り輝くパッケージに、見覚えのあるキャラクター。
国民的アニメの金持ちキャラ。
そう
ドラえもんの、スネ夫の入浴シーンが大々的に描かれた、黄金のパッケージの入浴剤が、そこにあったのだ。
私は、パッケージの文字に目をやった。
『スネ夫の金持ち風呂 自慢のお風呂でリッチ気分~トロピカルリゾートの香り~』
小洒落たイタリア料理のような名を冠したその入浴剤は、
私の心を掴むには十分すぎた。
金持ち風呂
トロピカルリゾートの香り
裸体のスネ夫
パッケージがパッケージの意味をなさず、視覚から何一つ情報が入ってこないそれを、気が付けば私は買い物かごに入れていた。
すぐ横に、
『レーズンパンの香り』
という、これまた奇怪な入浴剤もあったが、やはりこのインパクトには敵わない。
私は、レジへ向かい、意気揚々と帰宅した。
家に帰るや否や、私は風呂を沸かした。
暫くして、風呂が沸いたことを知らせる、ヴィヴァルディの四季 春が流れた。
私は風呂場に向かい、湯船に入浴剤を投入し、すぐさまふたをした。
その後、服を脱ぎ、シャワーで体を洗い、
トロピカルリゾートの香りとはどのような香りなのだろうか?
と考えつつ、湯船のふたを開けた。
その香りは、入浴剤の香りだった。
トロピカル感もなく、リゾート感も無い。
おばあちゃんちの様な、安心感のある、入浴剤の香りだった。
まあそんなものか
と思いつつ、私は湯船につかった。
おばあちゃんちの湯船だった。
その後しばらく、湯船につかりながら考え事をして、風呂を上がった。
浴室のドアを開け、バスタオルを取り出し、髪を拭いた。
結局トロピカル要素は無かったな。
などと考えつつ。
やがて髪を拭くタオルが、髪から顔へ移動したとき、
ふと良い香りがした。
いつものシャンプーの香りと、さらに、少し南国感のある、パインスカッシュの様な香りが鼻腔を弾いた。
私は少し感動した。
それは、まごう事無き、トロピカルリゾートの香りだった。
ふいに、ふわふわなタオルから香るいい匂い。
そうか、お金持ちって、風呂にだけ金をかけるんじゃなくて、洗濯機とか、洗剤とか、必要なところに金をかけて、全体の満足感を上げるよな。
と、私は妙に納得してしまった。
本当の金持ちは、無闇に金をかけるのではなく、ほんの些細な幸せの為に沢山金をかけるんだな、と。
スネ夫の入浴剤で、ちょっとした教訓を得てしまった。
悔しい。