チキンライスもナシゴレンも日常食。
今日は、マレーシア料理とは何か、という直球の話題を。
マレーシア料理と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。辛そう? 香辛料が多そう? 漠然とアジアン?
最近はアジア料理の認知度が高まっているので、たとえば、ゆで鶏とごはんのコンビ「チキンライス」、香辛料のきいたスープ麺「ラクサ」、スパイスの炊きこみご飯「ビリヤニ」などをご存じの方も多いのでは。アジア飯の重鎮「ナシゴレン」も。これらはぜ~んぶ、マレーシア料理である。
えっ、いやいやチキンライスはシンガポール料理、ビリヤニはインド料理、ナシゴレンはインドネシア料理でしょう? と思ったあなた、それも正解。つまり、これらの料理は、シンガポール、インド、インドネシア、そしてマレーシアでもよく食べている、ということ。
そもそも、国の料理とは一体何なのだろう。
世界を見渡すと、同じような料理が、複数の国で親しまれている例はけっこうたくさんある。
いちばん多いのが、マレーシアとシンガポールのように国境を接している国同士。
次によくあるのが、同じ出身地の移民の動きに関係しているもの。たとえば、先のチキンライスは、マレー半島に渡ってきた中国出身の移民が考案した料理といわれ、彼らの移住の広がりによって、シンガポール、マレーシア、そしてタイでもとってもポピュラーな料理になっている。
話しをマレーシアにもどすと、2つめの“移民の動き”がかなり重要なポイント。
というのも、チキンライス、ビリヤニ、ラクサというように、さまざまなジャンルの料理がマレーシアに根づいているのは、もともとこの地に暮らしていたマレー系民族の料理に加えて、19世紀後半に渡ってきた中国系、インド系といった2つの移民の料理が加わったから。
具体的に紹介すると、チキンライスは中国系、ナシゴレンはマレー系、ビリヤニはインド系といった具合。ラクサは、中国系の麺文化にマレー系のスパイシーな味つけをした発展系である。
そして、これらの味がどれも地元の人のふだんのご飯として親しまれているのがマレーシアらしさ。互いに、他の民族の味を自由に行き来もする。つまり、中国系だからといってチキンライスばかり食べているのではなく、ナシゴレンもビリヤニも、じぶんたちの故郷の味として楽しむのがマレーシアである。
マレーシア料理を知ったことで感じているのは、わたしたちは、つい、知らない料理に出あうと、いとも簡単に「これは○○料理」と国名や地方名のラベルを貼ってしまうけど、「○○料理」といっても、その国やその地方だけで食べられているものではない。ましてやその国発祥の料理でないことも多い、ということ。
つまり「〇〇料理」と表現するとき、それは「○○でよく食べられている人気の料理」や「○○人の多くが好きな料理」ぐらいが、事実に近い気がする。
食文化とは、その土地に起こった歴史の流れを写しだす鏡だとわたしは思う。
時代とともに変化し、民族や国境のような人間がつくりだした既成概念をひょいっと飛び越えて、ダイナミックにぐんぐん広がっていっているのがおもしろい。
このことをマレーシア料理を通して実感し、この感覚を多くの人におすそわけしたいと考えている。
伝えたいのは、歴史とか、民族とか、文化とか、そういう文字にすると大きな概念で手に負えないように感じるけど、じつはそれらは、わたしたちの身近にあるもんなんだよ、ということ、です。
※今回の文章は、朝日新聞サービスアンカー『我が街かわら版2020年8月号』に掲載された「文文文」の文章を加筆修正したもの。
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これは、サラワク州のクチンで食べたチキンライス。一緒に食事をしたサラワク人(上記3人)は「ここのチキンライスが世界No.1」と本気で思っている。
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