続・恋のリハビリ(トリスハイボールを飲む人)
去年の初夏のおはなし。
の続き。
気になる事がいっぱい
近所に住んでいるのにお互いの家には行かず、駅前のビジネスホテルで過ごした事実は数日かけてじわじわと大きな疑問となっていた。
本当は近所に住んでない?
実は結婚か同棲をしてる?
というか、名字・年齢・職業は?
色々な疑問が次から次へと浮かび、私は疑心暗鬼でいっぱいの気持ちを抱えていた。
けれど、彼に関して知りたい事が増えたのは良い傾向かもしれない。
6月のとある日、急にハイボール君からLINEが来た。
「今仕事帰りなんだけど、おとうふさんも仕事帰りで近くにいたりしない?」
ちょうど帰り道、いつものバーで飲んでいたので合流する事となった。
そこで私は「もっとお互いの事を知ろう」と提案し、数時間一緒に飲みながら年齢や職業、結婚観の話をした。
彼との事を詳しく知れて何となく安堵が訪れた。
私の考え過ぎ故の勘違いだった。
その日は近所まで一緒に帰り、キスをして別れた。
彼は何度も何度も私の家に入ろうとしたが、「付き合っている人じゃないといれたくないの」と説明し帰って貰った。
自分の家にあげない理由は言わないんだね?と心の中で疑心暗鬼の私が呟いた。
友達に紹介出来るか
いまだに同棲説を捨てられない私は次の策に出た。
友達に紹介出来るかどうかでその人が不倫や浮気をしているかを見分けるのだ。
もちろん私の友人代表は山田だ。(同僚のカラオケ好きCA)
彼に会ってみたいと友人が言っていると説明した所、反応が良かったので彼の友達も誘い4人で飲もうと提案し、とんとんと予定が決まる。
新橋か銀座あたりでカジュアルにワインが飲める所にしようと言う話になり、私が行ってみたいお店をいくつか提案したが、数日後に「どこも予約取れなかったー」と返事が来た。
「うん、私が調べた時はあいていたけど前日はさすがに埋まってるよね。」と、心の声をぐっと抑え彼が予約した店に行く事になった。
事前に情報の擦り合わせをするべく、駅ナカのビアバーにて山田と打ち合わせをする。
まず、山田と2人で行きたいワインバーをピックアップしたにも関わらず、今日の会場が「俺のイタリアン」になった事に山田はご立腹であった。
(山田はワイン好き)
職業についても「知らないと思うから」と言うのは怪しいから自分がもう一度聞くと言って聞かない。
心強い友よ、ありがとう。
いざ待ち合わせの「俺のイタリアン」に行ってみると、彼らはすでに2人で一杯やっていた。(やっぱりハイボールを飲んでいた)
私達は追加でビールを注文し、改めての乾杯をした。
それからは山田がハイボール君に質問攻めし、分かる事があった。
地方が本社のメーカーに勤務している事は本当だった。
後から山田が言うには「おとちゃんに言いたくないって言った意味が分かるかもしれない。」との事だった。
自分の仕事には自信を持とうよ。
そして彼が連れて来た友人についても気になる事が。
ハイボールが友人に「勤め先どこだっけ?」「名字なんだっけ?」「今何歳?」と質問をし、友人なる人物は敬語で受け答えしている。
さすがに違和感があり、「2人の関係は?」と聞くと「つい先週の日曜日、地元のバドミントンクラブで知り合った」との事だった。
同僚か古い友人連れて来い。
この会の目的を考えると、あまり意味のない時間になった。
2軒目はカウンターしか空いておらず、なぜか横並びで座った。
私・山田・バドミントン・ハイボール
と並び、完全にふた手に別れてハイボールを飲んでいた。
山田が「この後私は帰る予定だったけど、ちょっと違う感じだよね?」と、私の心を読んだ。
「うん、ちょっと今日はもう一緒にいたくないかな。山田と2人で反省会もしたいし…。」
そう告げると山田が「じゃ、私達帰ります!」告げ、私が2人分の飲食代を払いその場を去った。
山田と私は、本来行きたかったワインバルに行きワインを飲み、新橋のビッグエコーで朝まで歌った。
「あいつ知り合ったばかりの知らんやつ連れて来んな」と笑いながら沢山飲んで沢山歌った。
なんとなく、セフレ
変な4人飲みの後、1ヶ月くらい経ち私は冷め始めていた。
やりたいだけの様な彼の誘い方が気になり返事もドライになっていたが、それでも気した様子もなく彼から何度も誘いがあり、私も他に気になる人もおらず会い続けていた。
その後9月に2度、その後予定が合わず12月に1度会った。
毎回駅前のビジネスホテルに当然の様に連れて行かれ「なんだこの関係?」と自問し「あ、なんかセフレだ」と自答した。
例の失恋から1年が経ち、不思議と過去の好きだった人はもうどうでも良い存在になっていた。
けれど、それはハイボール君のおかげではなかった。
ハイボール君に対しては、恋焦がれて眠れない様な感情はいまだに抱いた事はなく、しいて言うなら「彼氏候補」として最初は接していたはずが、今やただのセフレだった。
正直に言ってしまうと、今ハイボール君が私の前からいなくなっても感情は1ミリ足りとも動かない自信があった。
そう感じていた時、「クリスマスは何しているの?」と聞いてみる。
「12月6日から年始までは実家なんだよね〜。」
と彼は答えた。
もう既婚じゃん!
と心の中で突っ込み、私の全ての勘を頼りにこの縁を切ろうと思った。
「そっか」と短い返事を送って暫くハイボール君の事は忘れていた。
フェードアウトが合っている
暫く連絡を取っていなかったが、2024年1月の傷ましい航空事故の後、彼から心配と労いのLINEが届いた。
その優しさには感謝し心癒されたが、あくまでも友人に対しての感情だった。
事故後は私も暫く落ち込んでおり、やりもく雰囲気満載のLINEを返す気力もなく、返す程でもないメッセージは放置する様になった。
彼の様な、既婚者だか浮気者だか分からない得体の知れない生物とは、真実を突き詰めたり誠実さを求めたりしてはいけない気がした。
フェードアウトがお似合いだ。
爽やかな別れ
1月に彼からフェードアウトし、それから5ヶ月が経ちこうしてやっとnoteにハイボール物語をまとめていた。
終わり方が中途半端だなぁと感じながらつらつら書いていると、突然懲りないハイボール君からお誘いのLINEが来た。
文章を読まずに私はすぐに断る文言を考え始めた。
それくらい心は「なし」に決まっていた。
けれど私はその時とても気分が良く、誰かに汚い言葉を浴びせる気分ではなかった。
よく良く考えたら、去年の夏の間楽しい恋愛気分が味わえたのは彼のおかげだったし、失恋の傷も癒えた。
何より、失恋の穴を付け焼き刃で作った恋心で無理矢理うめる事は不可能であり、ちゃんとした恋愛はもっと自然に訪れると言う事を彼は教えてくれた。
けれど、彼の隠し事は私にバレていたし、今後も不幸な女性を近所に増やさない欲しいとの願いを込めてLINEを返した。
喧嘩にならず、お互いお礼を伝えて終わりにする。
お互い感情がなかった現れの様な気がした。
だから私も「新しく好きな人が出来たから会えない」とは言わなかった。
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