ディストピアの向こうへ

ナオミ・オルダーマン『パワー』

『BOOKMARK』14号「against 『ノー』と言うこと特集」で紹介されていたのをきっかけに読みました。

冒頭のやりとりや、途中忘れた頃に挿入される図版に「……?」と首を傾げつつ読み進めていくと、終盤にはっとその意図に気づく。
読了後、やるせなさと憤りを抱えながら、もう一度図版とキャプションを一つひとつ見返した。

語り手の一人である男性ジャーナリストが、作中で、静かな街路を一人で歩くのが怖いと感じるシーンがある。
その感覚がわかることも、きっとわからないひとがたくさんいるんだろうなと思わずにいられないことも、苦しくて、悔しい。

この作品がディストピア小説だというのはたしかに間違っていないけれど、それはつまり、今のこの世界がディストピアだということ。
もちろん、いろんなひとの努力で変わっていっているし、変えていきたいと思っているけれど。
そして本もまた、そのためのパワーのひとつなのだ。

『BOOKMARK』とは

各号のテーマに沿って選ばれた16冊の本について、その本の訳者が紹介文を寄稿する、翻訳書の紹介冊子。
翻訳家・金原瑞人さんが、同じく翻訳家の三辺律子さんと協力して出しています。
現在は年2回発行され、書店などで配布されるほか、個人送付も受け付けています。
また、バックナンバーのPDFが公式サイトで公開されています。

1~12号をまとめた書籍『『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK』』も刊行されています。


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