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「ゆでたまご」

俺は控えめに言ってもど変態だと思う。それはなぜかというと…、

「…お、湯が沸いたわ。たまご3つ入れてと…」

鍋の湯の中のたまごを、黄身が真ん中になるように、時折かき回しながら、俺の口元は密かに少し緩む

俺は…毎朝ゆでたまごに欲情してるからだ。

ことの始まりは俺が6才の頃、母さんが俺に初めてゆでたまごの殻を剥かせてくれた時…。
硬くて薄い殻にコツコツとヒビを入れて、中身を傷付けないように慎重に殻をペリペリ剥がしていく難しさ。
そして出て来た、白くて柔らかくて丸い壊れやすいゆでたまご、あの白身をつついてみた時、そのプリッとした感触に感じたのは、背筋がゾクゾクとする居ても立っても居られないあの感情。
幼心にはわからなかったが、あれは初めて感じた快感だったと思う。

それからと言うもの中学高校になってもゆで卵が大好きで、毎朝作ってる。
母さんが目玉焼きを作った日も俺ゆで卵作るからといってゆで卵を作っている。
6歳の頃からずっとずっとゆで卵が好きで、ハードボイルドにゆでたの卵のプリっとした白身の感じも好きだが、半熟に作った時の白身の頼りない柔らかさも好きだ。
半熟の黄身がトロッとした感じも好きだし、ハードボイルドのゆで卵の黄身がちょっとパサつい少しパウダー状になってるのも味わい深い。
そんな感じで今日もお昼にゆで卵を持っていってるので、周りから毎日ゆで卵持ってくる『ハードボイルド野郎』と言うあだ名をつけられてる。
だが構わない。
今日も昼食時間に無心でゆで卵の殻をむく。
この殻を剥く作業がたまらない。
中身を傷つけないようにゆっくりゆっくり確実に剥いていくのが、楽しいひと時。
徐々に柔らかい白身があらわになるのが、なかなかエロい!と内心感動しつつ、その感情を決して表情にださずに今日も殻剥き作業を終える。
そして俺は傷ひとつつけずに殻を剥き終えた達成感に、内心ご満悦で少しゆで卵を眺めていると、隣の女子が、
「深谷君、今日もゆで卵なんだね!」と声をかけてくる。
「お、おう」と俺はそっけなく返事を返しておく。
ゆで卵に欲情してるなんてバレたら、周りにどう思われるか分からない!
俺はずっとゆで卵が超!大大大好きなの隠して生きて来た。
それから、いつの頃からかはわからないが、ゆで卵の殻を剥いてるとその女子『雪白さん』が俺の隣に来て、俺がゆで卵の殻をむいて食べる昼食の間、隣にいてくれるようになった。
ある日ふっと顔を上げて雪白さんを見ると、彼女のほっぺは、殊の外が白くて柔らかそうなきめ細かい肌をしていて、思わずちょっと手が伸びてほっぺ触れ…

「お前の肌、ゆで卵みたいだな」
と口走ってしまった。

「ふ、深谷君💦わた、私、ゆでたまごほどは肌白くないよ💦」と雪白さんは狼狽していた。

それからと言うもの、俺は彼女の肌の白さがゆで卵のように思えて仕方がない!!
というか、彼女の存在が気になってきた。
彼女の肌はゆで卵のような感触なのだろうか?
あんなにちょっと触っただけでは、ゆで卵のハードボイルド並みにやわらかプリっとした感じなのか?それとも、半熟の白身の頼りない柔らかさなのか?全然わからなかった。

もっと彼女の肌に触れてみたいと思ってる自分がいる…。
それからと言うもの、彼女のことが気になって、気がつけば目で追っている。

彼女すごい性格がいいけど、奥手で人見知りみたいで友達があまりいないみたいだった。
なんで俺と一緒にお昼食べてくれるかわからないけど、俺はコワオモテだし、ハードボイルドって言われて、孤高の人みたいになっちゃってるからな。
雪白さんからしたら、お互いはぐれ者同士で、ひとりでお昼食べてるとクラスで浮くから、つるんで隣にいてくれてる感じかもしれない。

それである日、一緒に昼食をとってる時周りに人が居なくなり、2人きりになったのだ。
思わずドキドキドキドキして、つい口走ってしまった。
「君が好きだ…」
すると、彼女はえっ?となった後、くすくす笑った。
「な〜んだ!そんなにゆで卵好きなんだね。ゆでたまごの黄身が好きなんだね」
と言われてしまって、俺は、
「あー、うん」とごまかした。
というか伝わったほうがよかったのかもわからない。
とりあえず、まあ、彼女は毎日昼食時間隣にいてくれる。
俺は今日もゆで卵食べて、彼女のことを思ってる。

いつか彼女の肌にじかに触れて、彼女の柔らかさが、ハードボイルドゆでたまごか、半熟やわやわゆでたまごなのか、確認したい!!!と思いながら…。

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