常連ぶった夜の祝杯。
「お待ち遠さま」
キンキンに冷えた瓶ビールとグラスを二つ抱えてやってきた、ちょっと腰の曲がったおばちゃん。いやいや、失礼、女将さん。
そうそうこれこれ!
冷えたジョッキもいいけど、瓶で小さなグラスに注ぎ合いながら飲み干したいビールってあるよね。
「多分、おばちゃんさ、さっきの注文忘れてるよね」
なんて笑いながら、大声で2回目の注文を厨房に届ける。
常連のように大らかに。常連のように親しみを込めて。
そこは初見のお店だというのに、まるで常連であるかのような振る舞いでいさせてくれるのは、きっと女将さんと店主のつくり上げた雰囲気のおかげだろう。
ちょっぴり嬉しくなった夜に、居心地の良いお店で「おめでとう」「ありがとう」と、乾杯をした。
✳︎
私は、六月に、ある試験を受けた。
以前から勉強してみたかった分野だった。それが今の仕事に直結しているかといえばそうではないが、これから取り掛かりたいことの知識を身につけたかったので、急いで試験勉強を始めた。
ギリギリセーフで見事合格。自己採点で受かる自信はなかったので「合格」の文字を凝視した。
そのお祝いに、ということで焼肉屋さんに連れて行ってもらったのだ。
家からちょっと歩いた先の住宅街の中にあるその焼肉屋さんは、女将さんと息子さんで経営しているようなこじんまりとした座敷のみのお店だった。Googleマップで評価が抜群に良い。その理由も知りたかった。
偏見だが、こういうお店特有の古びた感じというのがなく、店内は清潔感に溢れ、改装工事をしたばかりではないかというくらいに整理整頓され、明るい雰囲気でとても好印象な店構えだった。
塩タン、ハラミ、ツラミ、カルビ、ホルモン、キムチ・・ご飯大を一つに、中を一つ。(サガリといきたかったがサガリは品切れ)
焼肉はタンとハラミさえあれば充分だけど、それはもう、それぞれがご飯をおかわりしたくらいにどれも美味しかった。
いい具合にサシの入った柔らかいハラミ、こちらの方面ではあまり見かけることのないツラミ、甘い脂が口の中で溶けていくホルモン、全てが言うことなし。
加えて、女将さんが野菜盛りとアイスをサービスしてくれた。
それぞれが自分の食べる分のお肉を焼きつつ、瓶ビールでグイッとそれらを流し込む。
「はぁ〜、さいっこう。。。」
何度、この言葉を二人で口走っただろうか。
この居心地の良さも抜群に良い。
私たち以外には、家族連れが二組。恐らくこの近所の常連さんだろう。
いつもならある程度お肉を口に運べば、胸焼けを感じてしまう年頃な二人だが、この日はお肉を食べる箸が止まらない。
女将さんの丁寧で、優しく、大らかな接客。厨房で黙々とオーダーをこなしていく店主。誰も見てはいないが、付けっ放しになっているテレビ番組。談笑が止まらない家族連れのお客さん。離れて座る二組の家族連れは知り合いだったようで帰り間際に立ち話が始まるというのも、初見の客である私ですらどうしてか安心感を覚えた。
私たちまでもが常連のような気持ちにさせてくれる不思議なお店。
胃も心も大満足した21:30、お会計へとすすむ。
「どこからいらしたの?」いくつか会話を交わし、女将さんと店主にそれぞれ「美味しかったです!!」と伝え、暖簾をくぐった。
美味しいお肉と美味しいお酒は、私の心を満たしてくれ、きちんと私のからだの栄養になった。そんな気がした。いい食事をした時は特にそう思える。
きっと、この先、私たちは正真正銘の常連になるだろう。