父親の告別式に私の誕生を知らせる葉書が届いた話。
「この度、待ち望んでいた長女が誕生しました。妻も大変喜んでます。」
私の誕生を知らせる葉書が私の元に届いた。
それは、父親の告別式だった。
お通夜の日は雨が降り続いていたけど、告別式は真っ青な空が見えるほど綺麗に晴れた。
私が22歳の時に、父は58歳で亡くなった。
急な死だった。その日の朝には会話もした。
その二日後には私は実家を離れ一人暮らしを始める予定だった。
死とは予想もできない時にとはよく聞くが、身内がしかも父親がこんなにも急な死を遂げるなんて。
到底理解できずに、受け入れられずに、10年もの月日が経過した。
葉書を届けてくれたのは父の古くからの友人のようだった。
父は知り合いや友人が多く、告別式には400人の参列者がいたことを後に知った。
とにかく人に好かれる人で、人が集まる人だった。
そんな父が友人に宛てた葉書を、その友人が告別式に持ってきてくれたのだ。
告別式は悲しむ暇もないくらいに忙しく、参列者への挨拶や対応で追われ、涙を流すこともできなかった。
いや、それもあるが、私の隣で泣きじゃくる母を守らなければ、私がしっかりしなければ、と強く感じたからだった。
そんな中、父と同じ年齢くらいの男性が近付いてきた。
いくつか会話を続けた後、
「音ちゃん?大きくなったんだなぁ。」
男性は涙を拭いながら一枚の葉書を私に差し出した。
22年前に父が友人に送った葉書は月日の流れを感じるようなものだった。
私には兄がいるが、兄とは7つ歳が離れている。
詳しいことは聞いたことがないが、その葉書にはどうやら母がどうしても娘が欲しく、待望の女の子の赤ちゃんだった、というような内容だった。
父が最後にくれた私への「産まれてきてくれてありがとう」の言葉のように感じた。
葉書を握りしめると涙が込み上げてきたのを覚えている。
父の友人がこの葉書を22年保管してくれていたことも有り難かった。
もう父には会うことはできない。
たった一度だけでいいから、お父さんに言いたかった。
「育ててくれてありがとう。」
届かない思いをこうして文字に起こすことで、私は10年越しに気持ちを整理させているのかもしれない。