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【題名:ノルマ】1分読切小説
タイトル:『ノルマ』
作者:『風子』
「今年もホントにクソだわ…」 地縛霊は揺れながら悪態をついた。
10月31日23時。東京は渋谷のスクランブル交差点脇は、凄まじい人口過密度であった。
自分の生前にこんな文化はなかったはずだ。
「化けもんの格好なんかしやがって。コッチは本物だっつうの」
「わかる!クソだよね、こんなの」
ギョッとする。
突然、巫女の仮装をした若い女が話しかけてきた。
「なんだよ。あんた、見える人かよ」
霊感のある奴に、たまに見られることはある。
だけど話しかけられたのは初めてだった。
「そうだよ。ハロウィンにお化けがいてウケると思って、話しかけちゃった。ねえ、インスタにアップしたいから、一緒に写真撮ってよ」
「写真に収まると思ってるわけ?」
「いいじゃん!やってみようよー、お願い!」
酔っているのか、女はバタバタと手足を動かす。
「しょうがねえな…、ほれ、やってみろよ」
馬鹿馬鹿しくなって、女の差し出すレンズに姿を向けた瞬間―。
霊の体がパッと白くなる。
「ごめんね。これ、コスプレじゃないんだ」
地縛霊は驚いた表情のまま輪郭が消えて、喧騒の夜空に溶けていく。
ふっ、と巫女が溜息をつく。
今夜のノルマはまだまだある。
「頑張らなきゃ。
おおっぴらに正装で力を発揮できるなんて、今日くらいだもん」