【気候変動・エネルギー政策 連載】 第1回:そもそも「気候変動」とは何か?気候が変動すると、何が起こるの?
こんにちは、ぴよすきです。
このNoteでは、環境・エネルギー業界の双方に身を置いた(ている)経験を持つ若造が、現在世界中で注目が集まっている「気候変動」や「エネルギー政策」について、自分なりに関心を持っていることや、思うこと書いていきたいと思います。
なお、ここで記載する内容はあくまで個人の意見、所見です。
私が現在所属している、もしくは過去勤務していた企業・機関の影響は当然受けているとは思いますが、彼らの意見を代表するものではないことをご承知おきください。
今回の記事の重要な要素は以下の3点です。
地球温暖化は、気候変動によって一時的に発生する影響の一つに過ぎない。温暖化から連鎖して、より深刻な災害が起こる可能性が高い
人間の安全保障をぎりぎり保つことができ、経済も工夫をすればギリギリ我慢できる限界が、「今世紀の終わりまでに世界平均気温を1.5℃の上昇に抑えること」
気温上昇を抑えることに失敗した世界では、人間は数えきれないほど多くのリスクを抱えることになる。
1.気候変動 ≠ 地球温暖化
日本では気候変動に関するトピックに関して、「地球温暖化」という言葉が使われる傾向があります。
そして多くの場合、「北極で氷が融けて困るシロクマ」や、「サンゴ礁がなくなって困る熱帯魚」など、世界のどこか遠くで起きている自分とは関係のないこと、として扱われることが多いです。
或いはグレタ・トゥーンベリさんや、レジ袋、ビーガン、大しておしゃれでも使いやすくもないサステナブルを銘打つファッションアイテムなど、「意識高い」、「我慢」という印象が強いですね。
メディアによる印象論についてはまた追って書いてみたいと思いますが、私自身は、気候変動を地球温暖化のみと結び付けてしまっていることが、日本の気候変動に対する危機感が欠如している大きな理由の一つであると考えています。
地球温暖化(気温の上昇)は、気候変動によって一時的に発生する影響の一つに過ぎません。気温の上昇を経て、山火事や干ばつ、海面上昇海水の酸性化、豪雨災害や土砂崩れの頻発化などな多種多様な自然災害が引き起こされる可能性が著しく高まっているのです。
そして歴史上の多くの革命や戦争の引き金が干ばつや天候不順による食糧不足などであったように、こうした自然災害は社会的なインシデントを誘発する可能性をも押し上げているのです。
こうした「山積みのリスク」を地球温暖化という一義的な言葉で片付け、シロクマの映像を流して満足しているうちは、日本の気候変動に対する危機感なんて変わるわけがありません。しかし最近でこそ徐々に変化してきましたが、悲しいことに、日本ではまだ多くの企業や政治家、国民の意識は「気候変動=地球温暖化=困ったシロクマ」なのでしょう。
2.「1.5℃」が究極のデッドライン
ですが、気候変動の進行は日本の状況が変わるのを待ってくれません。
今の状況から何も変えることなく、日々同じように生活をしていると、世界の平均気温はみるみる上昇し続け、2100年ごろには2.7度上昇すると予測されています。
この気温上昇を抑えられなかった世界ではもはや損失は避けられません。私たちの生存そのものも危ういですが、たとえ生きたとしても、経済的にかなり厳しい世界が待っていると言えるでしょう。(次の章で詳しく紹介します。)
気候科学の世界では、人間の安全保障をぎりぎり保つことができ、経済も工夫をすればギリギリ我慢できる限界を「今世紀の終わりまでに世界平均気温を1.5℃の上昇に抑えること」と結論付けており、これは2015年に国際社会全体で合意されています。
「別に2度上昇しても大して変わらんでしょ!」と思われたそこのあなた。確かに部分的に切り取ってみれば、その認識は間違えではないと思います。1.5℃上昇に抑えられても雪が全く降らずにスキー場が倒産しまくることはあるでしょうし、逆に2.0度上昇してもドカ雪が降って、パウダースキーをみんなが楽しむ未来はざらにあると思います。
ではなぜ1.5℃に抑えなければならないのか。私はそれを「ドミノ倒し」と「ティッピングポイント到達」の可能性を減らすのため、と考えています。
科学的に見ても、気温が全体的に上昇すれば、大雨をもたらす大きな積乱雲が発生する確率は必然的に高くなります。小雨程度ならまだしも、記録的な大雨が増えれば地盤も当然緩みやすくなり、大規模な土砂崩れが連鎖して発生する可能性も上がるでしょうし、川が増水してダムや治水施設などのインフラを破壊するリスクも上がることも考えられるでしょう。
このように気温の上昇はドミノ倒しのように、多方面に影響を与えます。運よく「気温上昇⇒記録的な大雨増加⇒土砂災害頻発」というルートを免れたとしても、「気温上昇⇒空気の過度な乾燥⇒大量の山火事発生」というルートで新たなドミノ倒しが起きる可能性もあります。このように、1.5℃を超えて気温が上昇すると、あらゆるルートで多くのドミノが倒れ、私たちの生活が我慢できる限界ラインを超えてしまうのです。
またドミノを倒す勢いが増していくと、絶対に倒してはいけない臨界点のドミノまで倒してしまう可能性もあります。気候科学の世界ではこうした臨界点は「ティッピングポイント」と呼ばれ、ひとたび発生するととてつもない被害をもたらし、かつ不可逆性を持つ(元に戻せない)事象として恐れられています。
このティッピングポイントは一つ越えるだけで、世界の気温を簡単に上昇させます。現状の気温上昇に加えて下図に示したような要素が副次的に発生すると、さらに気温が上昇する可能性があり、しかもこれらが元通りになることはありません。こうした事象は気温が上がれば上がるほど発生する可能性が高く、かつ私たちの生活や経済に与えるダメージも大きいため、なんとかして発生するのを抑制しなければならないのです。
3.私たちが気温上昇を抑えることに失敗するとどうなるのか? ~1.5℃以上気温が上昇した世界~
ここまで理論を云々並べてきましたが、実際に私たちが気温上昇を抑えることに失敗するとどのような世界になるのかを、既に発生している事例や、科学的に証明されている事象から紹介していきたいと思います。
なおこれらはすべてフィクションではなく、報道や学術誌に掲載されている内容です。
① 暑さは限界突破し、水は干からび、山は燃えまくる
今年の時点で既に世界各地で初夏の段階から記録的な猛暑が発生し、歴代最高気温の更新が相次ぎました。6月時点から中東やパキスタンなどでは50℃以上、欧米各地でも40℃以上の日が続きました。
日本も例外ではありません。1875年の観測開始以来、6月に35℃以上の猛暑日になったのは計3日間しかありませんでしたが、なんと今年は6月に6日連続で猛暑日が発生するという異常事態になりました。
暑さが続けば、水不足や山火事が発生するリスクも高まります。現に今年は世界中で山火事が頻発し、世界全体で数万人規模が避難を余儀なくされました。またメキシコやイタリアでは水不足による緊急事態宣言が発令され、農産物の生産量も著しく減少する見込みが出ています。
このまま気温上昇が続けば、今年の「異常気象」や、それに伴う山火事、干ばつも毎年当たり前のように発生するかもしれません。それだけでなく、発生地域も広がり、一つ一つのダメージもさらに大きなものになる恐れもあります。
参考:
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/hottest-city-earth-mothers-bear-brunt-climate-change-2022-06-14/
https://www.bbc.com/japanese/61855547
https://www.tokyo-np.co.jp/article/186704 https://www.bbc.com/japanese/62047347 等
② 急増する水害:大雨は災害級に、世界中の氷河が融ける
気温上昇は2つの側面かから水害を増加させます。1つ目は大規模な積乱雲やモンスーンの増加、2つ目は猛暑がもたらした氷河の融解に伴う被害です。
大雨の多さ、激しさはここ最近日本の皆さんも身をもって感じるようになってきたと思います。
水曜日のダウンタウンでも「10年に1人の逸材 10年に1人以上出ている説」として大いにネタにされましたが、大雨界の逸材も既に世界各地で毎年、毎月の勢いで発生しています。
2年前は日本を台風15号→台風19号と連続して驚異的な規模の台風が襲いましたが、今年は東南アジアでその傾向が顕著に見られました。世界でも指折りの大雨大国、バングラデシュでは「近年では最悪規模の洪水」が6月だけで2度にわたって襲来しています。もはや「説立証」で笑える話ではありません。
そして猛暑で世界各地の氷河が融けだすことで発生する災害は、その規模をはるかに凌駕します。今年の7月に、1年間で10℃を超えることがほとんどないグリーンランドで、日本の4月並みの暖かさが1週間続きました。これによって、東京全体を26メートル沈める量の氷が融けたとされています。
日本には氷河がないため今一つイメージしにくいですが、氷河が融けると当然ながら多くの水が押し寄せます。山間部の氷河が融解すれば大量の水や土砂によってでダムや治水施設を破壊されますし、極地など海沿いの氷河が融解すれば、海面が一気に上昇することになります。
気温上昇を抑えられず、でグリーンランドや南極、北極などの氷が融け続けた場合には、2050年に名古屋の大部分が沈む、という研究結果も出ています。このままいくと、名古屋城の鯱は水に沈み、長島スパーランドは海の藻屑となります。
参考:
https://jp.reuters.com/article/climate-change-global-cities-migration/feature-from-dhaka-to-freetown-climate-migration-puts-cities-on-alert-idUKL8N2XT1G5
https://news.yahoo.co.jp/articles/431859b799269efe224a10acaeb25080181ecbf3 等
③ 暑い、雨ヤバい、沈む、だけでは当然終わりません。あなたの生活を蝕む恐怖
冒頭で気候変動の影響は連鎖的と書きましたが、当然ながら気温上昇を抑えられなければ連鎖的に発生する被害も大きなものになります。そしてもう既にその被害の片鱗は見え始めています。
まず、コロナも明け切りませんが、新たに強力なウィルスのパンデミックが発生する可能性があります。ここ最近、Nature誌で気温が上昇すると、動物の種を超えたウィルスの拡散が急増する、と指摘した論文も掲載されています。さらには南極大陸の土壌に抗生物質への耐性を有した最近が発見されており、南極の氷がの融解が進むとこれらの細菌が流出する可能性がある、という報告もされています。
つまり、このまま気温上昇が進むと未知の不治のウィルスが拡散し、さらには既存の抗生物質を効かなくさせる恐れも出てくる可能性があるのです。
洪水や干ばつ、山火事など気候変動に伴う災害(気候災害)によって住む場所を追われ難民化した人々もここ数年で世界的に増加傾向にあります。先ほど説明したバングラデシュの豪雨でも、1,000万人以上が家を追われ、同国の首都のダッカに流入したと報告されています。
ダッカは人口密度が世界随一であるため、今回の流入で完全に人口過密状態に陥っており、住民に対して国からの十分なインフラが届かないケースも発生しているようです。そしてこのような意図しない移民の流入が進み、都市が過密・欠乏の状態になると、治安が悪化することも少なくありません。今後今のペースで気温上昇が進めば、気候難民も増加し、世界各地で情勢が悪化することも想定されるでしょう。
ビジネス上でも影響は避けられません。気温上昇の影響であまりに大雨などの被害が頻発して保険金の支払額が急増することで、保険が事業として成り立たなくなるリスクも指摘されています。既に米・フロリダ州では損害保険会社の事業撤退や債務超過などの事例が発生し始めるなど、黄色信号が灯りだしている状況です。
4. まとめ
というわけで今回の記事のまとめですが、冒頭の要旨を再掲させていただきます。
地球温暖化は、気候変動によって一時的に発生する影響の一つに過ぎない。温暖化から連鎖して、より深刻な災害が起こる可能性が高い
人間の安全保障をぎりぎり保つことができ、経済も工夫をすればギリギリ我慢できる限界が、「今世紀の終わりまでに世界平均気温を1.5℃の上昇に抑えること」
気温上昇を抑えることに失敗した世界では、人間は数えきれないほど多くのリスクを抱えることになる。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は「なぜ気候変動対策は進まないのか?」という観点で記事を書いてみたいと思います。感想、批評、ご指導大歓迎ですので、コメント欄にお願いいたします。
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ぴよすき
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