最初に買ってもらったギターがその後のギタリスト人生に影響する説! の巻
彼はまだロックを知らない。テレビの歌番組から流れる音楽にはまったく興味がなく、父親の所有するクラシックのCDばかり聴いていたからだ。
それでも彼はテレビ放映される映画は好んで見ていた。
そしてある日「金曜ロードショー」で見た映画があの「バックトゥザフューチャー」なのだった。
ご存知の通り、あの映画のハイライトの1つが主人公マーティがダンスパーティーのステージでロックの名曲「ジョニーBグッド」を派手なパフォーマンスで演奏する場面だろう。
あれを見て、彼は完全にシビレてしまった。
そして14才の誕生日プレゼントにエレキギターを買ってもらうのだった。
ここで重要なことがある。
少年がエレキギターを始めようと思ったなら、最初の1本をどうやって手に入れるか。
一般的には、漫画雑誌のうしろのほうの広告ページに載っている1万9800円のエレキギター+アンプ+ケーブルつき初心者セットか、知り合いのバンドやってる兄ちゃんに商店街のしょぼい楽器店に連れられて選んでもらった2〜3万円のよく知らないメーカーのエレキギターか、その2択だろう。
しかし彼は漫画雑誌を購読していなかった。
「知り合いのバンドやってる兄ちゃん」もいなかった。
そもそも彼はクラシック以外の音楽を聴いてこなかったので、「エレキギター」とか「バンド」とか「商店街のしょぼい楽器店」といった概念が理解できないのだった。
そのため、あろうことか、彼は家族が定期購読している通販カタログ誌に1つだけ掲載されていたエレキギター、カシオの「EG-5(←ネーミングのセンス!!)」を「まあ、世界のCASIOだし良い楽器に違いない」と判断して(←エレキギター界の一流ブランドがフェンダーやギブソンであることを知らない)親に報告したのだった。
で、このEG-5、まあひどいギターだった。
このギターの特徴は「アンプ内蔵で乾電池で駆動する。カセットテープレコーダーを内蔵し(!)、テープでカラオケ音源を流しながら演奏できる(録音も可能)。ディストーションスイッチのOnOffで瞬時にクリーンとディストーションの音色切り替えが可能」というものだったが、、、
乾電池で駆動するというと便利な気もするが、なんと単2乾電池を6本も使用する。だから重い。単2乾電池6本は重い。ボディはプラスチック製なのに単2乾電池6本入れると重い。しかも「アンプ内蔵だから、アンプ買わなくて良いからお得だぞ!」と思ったのに毎日弾いてると1ヶ月で電池がなくなるから買わないといけない。単2乾電池6本は高い。当時の1ヶ月の「お小遣い」は、CD1枚と、ギターの弦と、単2乾電池6本でゼロになっていた。
まあ乾電池で駆動するエレキギターは他のメーカーからも出ているし、ボディが木製ではないギターも現在では珍しくないが、カセットテープレコーダーを内蔵しているギターなんて少なくとも1990年代後半の日本にはこれしかなかったんじゃないか。
そして当時の彼は、このテープレコーダー機能を利用して自分が弾いたフレーズを録音して再生しながら更にフレーズを重ねるというギタリストのほうのレスポール氏が1960年代くらいにやっていた変態的な奏法をそれと知らずに試みるのだが、いかんせん技術が未熟でうまくいかないのだった。
内蔵のディストーションスイッチについても触れておきたい。
エレキギターそれもロックギターの醍醐味といえば激しいディストーションサウンドにあるだろうが、クラシック音楽しか素養のなかった彼には当然ながら理解できない。最初はもの珍しさからスイッチを押してみるものの、「なんかガシャガシャした、やかましい音やなぁ」程度の感想しか持たなかった。
そしてあらゆる音楽を聴いてきた現在ならわかる。あのディストーションスイッチの音色は薄っすい、安っぽい音やったと。そして恐ろしいことに、サウンドの判断基準を明確に持たなかった当時の彼は、その薄っすい、安っぽい音をロックギターのディストーションサウンドだと認識してしまったのだった。
(つづく)
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