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おてんばと亀

今回、棚をお借りしている「甲羅文庫」さん。
甲羅文庫さんは、亀が好きらしい。というか、好き。
亀。子どもの頃、小学校の帰り道でひよこを売っているおじさんがいた。おじさんは、亀を売っていることもあった。ふと思ったけれど、あのおじさんはみんな同じおじさんだったんだろうか。

売られているひよこや亀をいつもほしくなった。殊に、ひよこは、おひさまのにおいがする。それだけで、なんだかほしくなった。でも、おじさんは大抵は次の日にはいなくなってしまう。そのうちに、おじさんの姿もどこへ行っても見かけなくなった。どこかでそういうおじさんを見たら、こっそりあとをつけてみたい。

甲羅文庫さんは、子どもの頃におじさんから亀を買ったことがあるのだろうか。ちょっと想像するのが難しいけれど、少年甲羅文庫がお小遣いを握りしめて、おじさんのところへ走っていくところを思う。

亀はお祭りの日にも売られていた。売っていたのはやはり、おじさん。学校の近くで亀を売っていたおじさんと同じおじさんだったのか。おじさんについては、おじさんであったことしか覚えていない。

甲羅文庫には亀グッズがある。リスグッズを集めていた経験だと、あまり遠くない将来、甲羅文庫さんは亀グッズでいっぱいになると思う。

ほんとうは、私は亀がちょっと怖い。甲羅干しをしているところを遠くから眺めるのは好きだけれど、近くにいると怖い。亀だけでなく、虫とかもちょっと怖い。そばにいて、突然巨大化したら怖い。いきなり渾身の力をふるって飛んできたらどうしようとか思うと、怖い。ないとわかっていても怖い。リスだって、「おお、愛いやつ、愛いやつ」なんてうっかり油断すると、あいつら嚙みついてきたりする。さっきまで手から木の実を食べていたというのに。なので、亀や虫もいきなりガメラやモスラにならないとも限らない。小美人でないので、猛り狂う彼らを鎮めることはできない。迂闊に歌ったり踊ったりしようものなら、彼らの狂気に火に油を注ぐだけだ。無力だ。

幼稚園に上がる前だったと思う。家に大きな亀のぬいぐるみがあった。よくそれに乗っかって遊んだ。甲羅のところにほつれを見つけ、引っ張っているうちに、中の詰め物が出てきた。一心に引っ張り出していくと、亀はかわいそうな感じになった。

亀をいじめる子らを助けたのは、浦島太郎だ。浦島は助けた亀に連れられて、竜宮城でもてなされる。ここで終われば報恩譚だ。しかし、陸に帰って、竜宮城の暮らしを懐かしんだばかりに、彼は一瞬にして年寄りになる。亀のぬいぐるみをかわいそうな姿にしてしまった私は、竜宮城へ行く機会も当然なく、年齢だけ重ねた。

甲羅文庫で関敬吾なんぞを片手に浦島太郎を論ずるのも一興かも。そこは、ひとときの蓬莱になるはず。亀のぬいぐるみの詰め物を引っ張り出したせめてもの償いに、おとなしく立ち働きたい。乙姫でないことを心より詫びながら。


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