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『トランスジェンダー入門』 周司あきら・高井ゆと里 著 ~企業のダイバーシティ推進担当の本棚紹介⑨~

なぜこの本を読んだのか

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先日日経新聞で紹介されているのを読み、Amazonのレビューも高かったため(★4.2)購読してみました。(新書・文庫)『トランスジェンダー入門』周司あきら、高井ゆと里著 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
ちなみに私は日経新聞のデジタル版にダイバーシティ関連の単語をキーワード登録して、通知が来るようにしています。本書の紹介記事もその通知で気が付きました。

仕事の役に立ちそうか

非常に勉強になりました。
ふだん性的マイノリティのことは、”LGBTQ+”というワードでひとくくりにしてしまうことが多いですが、アルファベットで代表される5つの属性、「Lesbian(レズビアン)」、「Gay(ゲイ)」、「Bisexual(バイセクシュアル)」、「Transgender(トランスジェンダー)」、「Queer(クィア)/Questioning(クエスチョニング)」の中でも、トランスジェンダーは比較的「イメージがわきづらい」「ややこしい(トイレ問題など)」「人数が少ない」存在(あくまで私にとってですが)でした。
この本を読むことで、トランスジェンダーの正確な定義、性別移行のプロセスがどのようなものか、医療や法律面でどのように扱われる存在で、そこにどのような問題があるか、について一通り学ぶことができました。
ダイバーシティ推進の仕事をしている以上、これらについて正確な知識を有している必要がありますので、まずは正確な基礎知識を身につけられて少しホッとしました。

先月7月に出版されたばかりの本ですが、帯には「トランスジェンダーの全体像がわかる本邦初の入門書」と書かれており、おそらく今後長く入門書として勧められる本になるのではと思います。
そして本書はそのような位置づけを獲得するために、とてもとても丁寧に客観的に書かれていますが、その一方でおそらく何十何百ページでも書きたかったであろう「トランスジェンダーを苦しめる社会の無理解や偏見を糾弾する」ためにはほとんどページを割いていません。多くの場面においてトラスジェンダーの苦しみの元凶であろう「シス男性」にもこの本をちゃんと読み切ってもらえるように(彼らが嫌気がさして途中で投げ出さないように)、相当な苦渋のバランスの上に書ききった一冊であると感じました。加害者の反発を招かないようにすること、加害者を怒らせないようにすること、そういったことを被害者の側が心掛けなければいけないというのは、本当にもやつく話ですが、その戦い方も含めてすばらしいと思いました。

仕事向けの備忘にしたい点

ここは覚えておこう、という部分を備忘(そのままですね)にしておきます。

  1. トランスジェンダーの定義
    ・ トランスジェンダー ⇔ シスジェンダー
    ・ 「心の性と身体の性が一致しない人」という説明は不正確。正確には「出生時に割り当てられた性別と、ジェンダーアイデンティティが異なる人たち」。「トランス男性」は「出生時に女性を割り当てられたけれども、ジェンダーアイデンティティが男性である人」。
    ・ 出生時に割り当てられた性別: 身体的な特徴を手掛かりに医師がカテゴリー分けを行い、戸籍等に記載される性別
    ・ ジェンダーアイデンティティ=性自認=性同一性
    ・ トランスジェンダーは、人口の0.4~0.7%

  2. ノンバイナリーとは
    ・ ノンバイナリー: 自身を女性でも男性でもない性別の存在として理解する人、いかなる性別の持ち主としても自分を理解しない人、あるいは女性と男性の二つの性別のあいだを揺れ動いていると感じる人。
    ・ トランスジェンダーは「出生時に割り当てられた性別と、ジェンダーアイデンティティが異なる人たち」であることから、ノンバイナリーはトランスジェンダーに含まれる。ただし、「自分はノンバイナリーであるが、トランスジェンダーではない」という人もいる。理由は、「トランス(越境)」という語のニュアンスへの違和感など。

  3. 性別にまつわる二つの課題
    ①「女の子として/男の子としてこれからずっと生きなさい」という課題
    ②「女の子は女の子らしく/男の子は男の子らしく生きなさい」という課題
    二つの課題は異なる。トランスジェンダーが受け入れられないのは前者。フェミニストが異議を申し立てるのは後者。

  4. 医療との関係
    ・ トランスジェンダーは病気ではない。歴史的には、「性転換症」「性同一性障害」という名前で精神疾患・精神障害の扱いだったが、現在ではその考え方は時代遅れ。治療すべき病気ではなくなっている(脱病理化)。病気ではないが、医療のサポートが必要、という意味で「妊娠」のようなもの。
    ・「性同一性障害」の後継概念としては、米国精神医学会では「性別違和(Gender Dysphoria)」、WHOでは「性別不合(Gender Incongruence)」がある。
    ・1996年「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」。医師が行う正規の医療行為としてトランス医療が位置づけられた。ただし現在の視点からは、是正すべき内容も多数ある。
    ・2001年「3年B組金八先生 第6シリーズ」上戸彩さんが性同一性障害の生徒を演じ、名称が普及

  5. 性別移行
    ・自分をトランスジェンダーとして認識し、性別移行を決意してから、ほぼ完了するまでには相当の期間がかかる。「場」によって移行のタイミングが異なるため、この場では女性として、この場では男性として振る舞う、といったばらつきに耐えなければならない。

  6. 法律の問題
    ・「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(2003年成立)」、通称「特例法」により、戸籍上の性別を変更することができる。日本では「女」「男」だけを想定されているため、ノンバイナリーの人はジェンダーアイデンティティに適合的な公的書類を作成できない。
    ・性別変更には、特例法で定められた5つの要件(①年齢18歳以上、②非婚、③未成年の子がいない、④不妊化要件、⑤外観要件)を満たしたうえで、「性同一性障害」の診断を2名以上から得ることでが前提。
    ・就活時点(大卒時点)で、性別変更の要件をすべてそろえるのは相当困難。
    ・法律の問題と、公衆浴場やトイレの話は別問題。公的書類の性別が現実と異なっている社会的困難の問題(法律の問題であり人権の話)と、個々の事業者がルールを設けることが可能な公衆浴場の話(あるいはスポーツ競技への参加ルール)は、まったくの別問題。
    ・同性婚が認められていないことは、トランスジェンダーにとっても影響の大きい話。特例法の②非婚の要件は、「結婚しているトランスジェンダーが性別変更をすると、同性婚状態になってしまうのを避けるため」。そもそも同性婚がみとめられていれば、必要のない要件である。またトランスジェンダーには、異性愛者でない人が多い。

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