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さようなら、は言いたくない。
※精霊さんが話します。
※自己解釈を多分に含みます。
※リズムの季節が過ぎ去る時にTwitterで公開したものを加筆修正したものになります。
さようなら、は言いたくない。
春が来る。それはこのスケートリンクと、いつも穏やかに見守ってくれたあの人とのお別れを示す合図だった。
「ぷぁ!ぷぺっ」ねぇねぇ、きいて! と言わんばかりに鳴き、門の前に佇むあの人の元へと駆け寄る。
ーーおつかい、おわったよ!光もつかまえた!めーそーもした!キャンドルもつくった!友だちにかんじょうひょーげんもした!
ぴょんぴょんと兎のように足元で跳ね回る小さな星の子に、笑って特別なキャンドルを手渡した。
「お疲れ様、十九時間後に戻っておいで」
そう言って手を振れば、星の子は鳴いたり笑ったり、覚えたての感情表現をして喜んでくれた。一通り喜びを表現すると、ぴしり。と敬礼をして別の門をくぐって冒険へと出かけて行った。
「ぷぺ!ぷぷぷぁ!」
今日も一通り終わったらしい星の子が走り寄ってくる。
雨林で雨に打たれている子が居たから声を掛けたら、傘をさしていた。光のマンタを解放するのが大変だった。草原で闇の花を溶かすのに苦労した。精霊を解放するの為に色んな星の子と協力した。
体験した事を話して、満足したらまた別の冒険へ行く。それが楽しくて、少しだけ、寂しくもあった。
「ぷー?」
「あぁ、ごめんね。心配しないで」旅をして、ここに辿り着いた。だから、いつの日か離れる事は分かっていた。
それでも、ここにしばらく留まって星の子達と触れ合った日々は、あの人にとって楽しく温かな記憶になっていた。それは勿論、星の子達にとっても素敵な日々の思い出になっていた。
暗く寒い日々を少しでも明るく過ごせるように、と留まったここにも直に、春が来る。
春が来たら雪とは解け、花が咲き。日が長くなって、寒さに震えることも、暗い夜に怯える事も無くなるから……。
「ぷぁ!ぷっぺぽ!」
「はい、お疲れ様」
「ぺぽ!」
「明日からは、春が来るから」泣き喚く星の子の丸い頭を撫でる。寂しいのはお互いだった。
「また、いつの日か会えたら……」
雪は解け、スケートリンクは姿を消した。いつも門の前に居た優しいあの人も、各地に居た楽しげな精霊達もいなくなった。
春がやってきた。