
海外進出で企業がハマる”8つの罠”
海外進出は、多くの企業にとって成長のチャンスであり、新たな市場を開拓する夢がある。しかし、現実は決して甘くない。
市場調査を行い、戦略を練り、計画を立てたとしても、すぐに成功する企業は少ない。多くの企業は途中で壁にぶつかり、最終的には撤退を余儀なくされる企業もある。
それはなぜか?
最大の理由は、初期の設計ミスにある。どれだけ優れた商品やサービスを持っていても、方向性を誤れば成功は不可能。市場の成長性だけを見て参入すると、競争に飲み込まれ、結果的に事業が立ち行かなくなる。
実際に多くの企業が海外展開に挑戦してきたが、失敗するケースには一定の共通点がある。
これまで見てきた事例から、特に多かった失敗パターンを厳選し、まとめた。以下の8のミスを避ければ、成功確率は格段に上がるだろう。
<<長文です>>
1. 事前調査が甘すぎる
「現地市場を調査した」と言う企業は多いが、実際に行っているのは競合他社の価格調査や市場規模の推測程度にとどまっているケースが多い。
本来、海外進出においては、単なる市場調査だけでなく、外資規制、税制、労働法、現地の商習慣、政治的リスクといった複合的な要素を十分に考慮する必要がある。
特に、外資規制や税制に関する理解不足は、後々大きな問題を引き起こす可能性があるにもかかわらず、多くの企業が軽視してしまいがちだ。
事例:外資規制を無視した進出計画の失敗
ある日系企業がベトナム市場への進出を決定し、100%外資の現地法人を設立しようとした。
しかし、現地の法律では特定業種において外資比率の制限が設けられており、外国企業が単独出資で法人を設立することができなかった。
この外資規制の存在に気づいたのは、すでに会社設立の手続きを進めた後であり、急いでローカルパートナーを探す必要に迫られた。
ところが、パートナー選定の準備が不十分だったため、信頼できる現地企業と条件の合う合弁契約を結ぶことができず、結果として事業撤退を余儀なくされた。
解決策:事前調査を徹底し、事業戦略に落とし込む
このような事態を防ぐためには、進出を決める前の段階で、現地の法律や商習慣を徹底的に調査し、それに基づいて事業戦略を構築することが不可欠だ。具体的には、以下のようなアプローチが有効となる。
法律・規制の確認
外資規制、法人設立要件、投資奨励・制限業種、税制優遇措置の有無を把握する。
現地の弁護士や会計士、コンサルタントと相談し、最新の規制を確認する。
現地パートナーの事前リサーチ
必要に応じて合弁パートナーを確保し、事前に交渉を進めておく。
企業文化や経営方針の相性を見極め、適切な契約条件を整備する。
市場環境・商習慣の把握
価格競争だけでなく、購買行動、流通構造、信用取引の慣習などを分析する。
現地企業との取引慣行(前払い・後払いの条件など)を理解し、リスクを想定する。
進出形態の柔軟な検討
100%外資法人設立、合弁会社設立、現地代理店・販売店との提携など、規制や市場環境に応じた最適な進出形態を選択する。
単なる「市場調査」だけではなく、法律・税制・文化・商習慣の違いを深く理解し、それを事業計画に落とし込むことが、海外展開を成功させる鍵となる。
2. 競争力がない領域に参入する
海外市場が急成長しているからといって、自社の強みが活かせない分野に安易に参入するのは、非常にリスクが高い。
特に、現地の競争環境を十分に分析せずに進出した場合、すでに市場を支配しているローカル企業との価格競争やブランド力の差に苦しみ、撤退を余儀なくされるケースが後を絶たない。
企業が持つ技術力、ブランド力、コスト競争力など、自社ならではの強みを活かせる分野でなければ、長期的な成功は望めない。 単に市場の成長性に惹かれて参入するだけでは、他社との競争に巻き込まれ、消耗戦となるだけだ。
事例:ローカル企業に勝てず撤退した物流会社の失敗
ある日本の物流企業は、東南アジアのEC市場の急成長に着目し、現地で倉庫事業を立ち上げた。
当初は、日本の高度な物流管理システムを活用すれば差別化できると考えていたが、実際には以下のような課題に直面した。
既存のローカル企業が市場を独占
すでに長年運営しているローカル倉庫業者が存在し、彼らは低コストで柔軟なサービスを提供。
日本企業の倉庫は高品質だが高コストで、現地企業との価格競争に負けてしまった。
ブランド力・顧客基盤の弱さ
地場の物流企業は既存のEC事業者とのネットワークを持ち、強固な取引関係を築いていた。
新規参入の日本企業は、信頼を得るのに時間がかかり、想定していたほど顧客を獲得できなかった。
商習慣・契約条件の違い
現地企業は柔軟な契約(短期契約・変動料金)を採用していたが、日本企業は長期契約や厳格な規約を重視し、顧客に敬遠された。
結果として、この企業は価格競争に巻き込まれ、十分な収益を確保できずに数年で撤退を余儀なくされた。
解決策:競争優位を築ける分野にフォーカスする
このような失敗を防ぐためには、単に市場の成長性に飛びつくのではなく、自社の強みを活かせる分野を慎重に選ぶことが重要だ。具体的な対策として、以下のアプローチが有効である。
競争環境の徹底分析
既存プレイヤーの市場シェア、強み・弱みを把握し、自社が勝てるポイントを明確にする。
価格競争になりやすい分野は避け、差別化できる領域に参入する。
自社の強みを活かせる市場を選ぶ
例えば、一般的な倉庫業ではなく、温度管理が必要な高付加価値の物流(医薬品・高級食品向け)に特化するなど、競争優位を築ける分野を狙う。
技術力、品質、ブランド、ネットワークのどれかで他社を圧倒できるか? を基準に参入判断をする。
スモールスタートで市場適応を図る
いきなり大規模な投資をするのではなく、テストマーケティングや小規模事業で市場適応力を確認する。
パートナー企業と連携し、現地企業とのネットワークを活用する。
現地ニーズに合わせた柔軟な戦略をとる
日本的なやり方を押し付けず、現地の商習慣に適した価格設定・契約形態を採用する。
現地の競争環境を理解した上で、独自の価値を提供できるかを慎重に見極める。
市場が伸びているからといって安易に参入するのではなく、「その市場で自社が勝てるか?」を徹底的に分析することが、海外事業成功のカギとなる。
3. 合弁先の選定ミス & 契約条件の甘さ
海外事業において、合弁先の選定ミスや契約条件の甘さは致命的なリスクとなる。
特に、新興国では契約内容の曖昧さやパートナー企業の信頼性不足によって、知的財産や事業そのものを奪われるケースが少なくない。
「現地に詳しい企業と組めば安心」と考えて、事前の調査を十分にせずに合弁契約を結ぶのは非常に危険である。
契約書における知的財産の取り決めが不明確だったり、出資比率や経営権の配分が曖昧だったりすると、後々取り返しのつかないトラブルに発展することもある。
事例:合弁契約の不備でブランドを乗っ取られたケース
ある日本企業が東南アジア市場に進出するにあたり、「現地の事情に詳しい企業と組んだほうがスムーズ」と考え、ローカル企業と合弁会社を設立した。当初は順調にビジネスが進んでいたが、以下のような問題が発生した。
1. 知的財産管理の不備
契約時にブランドの所有権や知的財産の管理について明確な取り決めをしなかった。
現地パートナーが日本企業のブランド名を使って独自にビジネスを展開し始めた。
最終的に日本企業のブランドが事実上現地企業に乗っ取られる形となった。
2. 経営権の主導権を握られた
合弁契約では、日本企業側が過半数の株を持たない形(50%以下の出資)で合意していた。
その結果、経営方針の決定権は現地パートナー企業が握る形となった。
日本企業が異議を唱えても、経営の主導権を持っていないため、パートナー企業の暴走を止められなかった。
3. 契約書の曖昧な表現がトラブルを引き起こす
知的財産権やブランド名の使用権について、契約書には明確な取り決めがなかった。
「合弁会社が設立したブランドは合弁企業のもの」という解釈がなされ、日本企業側はブランドを取り戻せず、最終的に撤退するしかなかった。
解決策:契約を徹底的に精査し、事業の主導権を確保する
このような事態を防ぐためには、合弁契約の段階で慎重に準備し、法的リスクを最小限に抑えることが不可欠である。
1. 合弁先の選定は慎重に行う
取引先の評判や過去の合弁事例を調査し、トラブルの有無を確認する。
現地の商習慣に詳しい専門家(弁護士・コンサルタント)を通じて、パートナー企業の評判をチェックする。
短期的な利益だけでなく、長期的なビジネス戦略が合致しているかを見極める。
資本力や市場での影響力だけでなく、誠実な経営姿勢を持つ企業かどうかを判断する。
2. 契約内容を徹底的に精査する
ブランド、特許、ノウハウなどの知的財産は、日本企業が所有することを明確に記載する。
合弁解消時の知的財産の取り扱いを契約書で規定し、勝手に使用できないようにする。
現地での商標登録を事前に済ませておく(合弁会社名義ではなく、日本本社名義で登録するのが望ましい)。
可能であれば、日本企業が50%以上の出資を行い、経営の主導権を握る。
意思決定プロセスを明確にし、重要な経営判断は日本企業の承認が必要とする条項を入れる。
役員派遣についても、日本企業側が一定の発言権を持つように調整する。
合弁解消時の資産・事業の整理方法を契約書に記載し、撤退時のリスクを抑える。
たとえ事業が成功しても、契約解除時に自社の技術やブランドが流出しない仕組みを作る。
3. トラブル発生時の対応策を準備する
契約書に紛争発生時の仲裁機関(例:シンガポール国際仲裁センターなど)を指定し、現地の法制度だけに頼らない仕組みを作る。
万が一、パートナー企業が契約違反をした場合のペナルティ(損害賠償・契約解除権など)を具体的に記載する。
4. コストはかかるのに、安売り戦略を採用する
「安く売れば売れる」という発想は、海外市場では特に危険な戦略である。
多くの企業が「現地の消費者は価格に敏感だから、安い商品なら売れるはずだ」と考えがちだが、実際には価格競争で勝ち残るのは、最もコストを抑えられる地元企業である。
日本企業が海外進出する際、原材料・物流コスト・人件費・品質管理コストなどがかさむため、ローカル企業と同じ土俵で戦うこと自体が不利だ。
利益を生み出せない安売り戦略を採用すれば、いずれ資金が尽き、撤退を余儀なくされる。
事例:価格競争に巻き込まれ撤退した食品メーカーのケース
ある日本の食品メーカーは、「ベトナム市場は急成長中で、安価な食品が売れる」と考え、現地向けに低価格戦略を採用した。
日本品質の商品を現地の市場価格に合わせて販売すれば、シェアを取れると考えたのだ。しかし、以下のような問題に直面し、最終的に撤退を余儀なくされた。
1. ローカル企業の価格には勝てなかった
ローカル企業は、現地の低コスト原材料を使用し、安価な労働力を活用しているため、圧倒的に低コストで製造可能。
物流コストの面でも、日本企業は輸入コストがかかるため、価格競争では不利。
日本企業が低価格で勝負しても、ローカル企業はさらに安く販売できた。
2. 価格競争の果てに利益が出せなかった
価格を下げたことで、利益率が極端に低くなり、持続的な事業運営が困難に。
価格を上げようとしたが、「安いから買った」消費者が離れてしまい、ブランドの定着も失敗。
3. ブランド価値が毀損し、消費者の支持を得られなかった
「低価格の商品=安かろう悪かろう」という印象を持たれ、日本品質の強みを活かせなかった。
日本の商品に対する期待値が高い市場では、「安価な日本製品」はむしろ信頼を失う原因となった。
結果として、この企業は市場に定着できず、競争力を失ったまま撤退せざるを得なかった。
解決策:価格以外の付加価値(品質・サービス・ブランド)で勝負する
このような失敗を避けるためには、価格競争ではなく、他の価値で差別化する戦略が不可欠である。日本企業が持つ強みを活かし、以下のポイントにフォーカスすべきだ。
1. 価格ではなく「品質・機能・サービス」で戦う
価格勝負を避け、日本製品の高品質・安全性・長持ちする点を前面に押し出す。
例えば、食品であれば無添加・オーガニック・健康志向といった付加価値を強調する。
日本企業らしい丁寧なサポートや保証制度を武器にする。
例えば、家電や日用品なら、保証期間の長さやアフターサービスの質で差別化する。
2. 「高級・プレミアム市場」にターゲットを絞る
東南アジアの都市部では、日本品質を求める中間層・富裕層が増加中。
価格ではなく、「品質の良いものにお金を払う層」に訴求する戦略を取る。
「安い日本製品」はブランド価値を損なう可能性があるため、むしろプレミアム路線で展開する。
例えば、日本の高級食品ブランドは、「和牛」や「抹茶」などの本格派を求める層に向けたマーケティングを行うことで成功している。
3. ローカル企業と差別化できるポイントを作る
ECや直営店を活用し、価格競争の激しいスーパーマーケットや量販店に依存しない。
例えば、日本食品ブランドが自社ECサイトで直販し、ブランド価値を守る形で成功している事例がある。
大衆向けではなく、富裕層向けの販売チャネル(高級スーパー・専門店など)を中心に展開。
例:日本の化粧品ブランドが、マス市場ではなくハイエンドなデパート限定販売にすることで、プレミアムブランドとして成功したケースがある。
5. 使えないコンサル・会計事務所に依存する
海外進出を考える企業の多くが、「現地に詳しい」ことを売りにするコンサルタントや会計事務所を頼る。しかし、実際には役に立たないコンサルが非常に多い。
提供される情報がネット検索レベルで、自社で簡単に調べられる内容しかない。
実務経験が乏しいため、実際の進出プロセスでトラブルが発生しても適切な対応ができない。
高額なコンサル料を請求されるが、具体的な進展がないまま時間だけが過ぎる。
コンサルに丸投げすると、費用がかかるだけで何も進まないという最悪の事態に陥る可能性がある。
事例:ネット検索レベルの情報に数百万円を支払う羽目に
ある日本企業が東南アジアへの進出を検討し、「現地市場に詳しい」というコンサルタントに調査を依頼した。コンサル料として数百万円を支払ったが、最終的に以下のような問題が発生した。
1. 提供された情報がネットで調べられるレベルだった
コンサルが提供した市場調査レポートの内容が、公的機関の無料レポートとほぼ同じだった。
競争環境や消費者ニーズの分析が浅く、戦略立案には使えなかった。
「それなら自社で調査すればよかった」と後悔する結果に。
2. 事業立ち上げの実務サポートがほぼなかった
会社設立のサポートを依頼したが、必要な手続きを丸投げされ、具体的なアドバイスがなかった。
「この手続きが必要です」と言うだけで、実務は全て自社で対応する羽目になった。
会計・税務面のリスクについての説明が不十分で、後に想定外の税務問題に直面した。
3. 最終的にコンサルを切るしかなかった
進出計画の遅れが発生し、別の信頼できるコンサルを探す必要が生じた。
数百万円を支払ったが、得られたものはほとんどなく、完全に無駄なコストとなった。
解決策:コンサル選びは慎重に行い、具体的な実績を確認する
こうした失敗を防ぐためには、コンサルや会計事務所の選定を慎重に行い、丸投げせずに管理することが重要である。
1. コンサルの実績・信頼性を徹底チェック
これまでにどの業界・企業の進出支援をしたのか、具体的な事例を確認する。
「市場調査できます」「会社設立できます」という曖昧な説明ではなく、実際にどの企業をどうサポートしたのかを質問する。
実績がない・曖昧な回答しかしないコンサルは即却下する。
既に現地で事業を行っている企業に「このコンサルは使えるか?」と直接聞くのが最も確実。
業界内の評判や口コミをリサーチし、過去に問題を起こしていないかチェックする。
2. 契約内容を明確にし、成果物のクオリティを事前に確認
「市場調査」と言われても、中身が重要。過去の市場レポートのサンプルを見せてもらう。
「どこまでの情報を提供するのか?」を事前に明確にし、曖昧な契約は結ばない。
コンサル料を一括前払いにすると、成果が出なくても支払わざるを得ない。
調査フェーズ・計画策定フェーズ・実行フェーズごとに分割払いにし、進捗を確認しながら支払う。
3. コンサルに丸投げせず、自社でもリサーチを行う
ネットで調べられる情報に数百万円を払う必要はない。
自社で調べられる範囲の市場調査は事前に行い、不足している部分のみコンサルに依頼する。
すでに現地で事業を行っている日系企業や現地企業と直接コンタクトを取る。
「このコンサルに依頼する価値があるのか?」を、既に進出している企業に聞くのが最も効果的。
6. バックオフィスが機能しない
海外進出時、多くの企業は「まずは営業活動や市場開拓を優先すべき」と考え、バックオフィス(経理・税務・労務・法務)の整備を後回しにしがちである。しかし、この部分を適当に済ませると、後々深刻な問題を引き起こす。
海外では、バックオフィス関連のトラブルが最も多く、撤退の原因にもなりやすい。特に、新興国では法律や規制が頻繁に変わるため、正しい知識と管理体制がなければ大きな損失を招く可能性がある。
事例:バックオフィスの管理不足で事業停止寸前に
ある日系企業が東南アジアに進出し、現地法人を設立。営業活動には力を入れたものの、バックオフィスの体制が不十分だったため、以下のような問題に直面した。
1. 税務申告のミスで高額な追徴課税を受ける
法人税や付加価値税(VAT)の申告が適切に行われていなかった。
税務当局からの監査が入り、過去の申告ミスが発覚。
罰金・追徴課税により、予定外の支出が発生し、キャッシュフローが悪化。
2. 労務管理の不備で従業員とのトラブルが発生
現地の労働法を十分に理解せずに雇用契約を作成した。
解雇規定が曖昧だったため、従業員を解雇する際に訴訟トラブルに発展。
結果的に、多額の和解金を支払う羽目に。
3. 資金繰りの管理不足で経営危機に
売掛金の回収遅延が続き、キャッシュフローが悪化。
日本本社からの送金もスムーズに行えず、現地法人の資金がショート寸前に。
最終的に、現地銀行からの融資で急場をしのいだが、高金利の借入となり、経営に大きな負担がかかった。
このように、バックオフィスの管理を軽視すると、営業活動が好調でも、思わぬトラブルで事業の継続が困難になる。
解決策:最初にバックオフィスの体制をしっかり整える
バックオフィスの整備は、単なる管理業務ではなく、事業継続のための生命線である。最初の段階でしっかりと体制を構築することで、トラブルを未然に防ぐことができる。
1. 現地の税務・会計ルールを理解し、専門家と連携する
法人税、VAT、関税、個人所得税などの仕組みを理解する。
日本の会計基準との違いを明確にし、適切な管理方法を確立する。
実績のあるローカルの会計事務所と契約し、定期的に税務アドバイスを受ける。
会社設立時から会計処理を正しく行い、監査対応をスムーズにする。
節税対策を適切に行いながら、税務コンプライアンスを厳守する。
「知らなかった」では済まされないため、定期的なチェックと専門家のアドバイスを受ける体制を作る。
2. 労務管理を徹底し、従業員トラブルを防ぐ
就業規則、給与体系、社会保険、労働契約のルールを明確に把握。
解雇や残業に関する規定を、現地の法律に準拠して厳密に設定する。
口約束ではなく、法的に有効な契約書を作成。
退職・解雇時の条件も明確にし、トラブルを未然に防ぐ。
従業員からのクレームや不満を早期にキャッチし、訴訟リスクを回避。
ローカルのHR専門家と連携し、労働環境を整備する。
3. キャッシュフロー管理を徹底し、資金ショートを防ぐ
取引先の信用調査を行い、支払い遅延リスクを最小限に抑える。
契約時に支払い条件を明確にし、定期的に回収状況を確認する。
現地銀行との関係を構築し、融資の選択肢を確保。
日本本社からの資金送金手続きをスムーズにする体制を整える。
収支の状況を把握し、資金繰りの問題を早期に発見・対応する。
予算計画を厳密に策定し、無駄なコストを削減。
7. 現地が決定権を持たず、すべて本社承認が必要
海外市場では、スピード感のある意思決定が成功の鍵となる。特に、東南アジアなどの成長市場では、変化が激しく、迅速な対応が求められる。
しかし、多くの日系企業は、現地の責任者が決断できず、本社の承認を待つ間にビジネスチャンスを逃してしまう。
競争が激しい海外市場では、韓国や中国の企業がその場で即決する一方、日本企業は「本社に持ち帰って検討します」と言っている間に、商談を奪われるケースが後を絶たない。
事例:意思決定の遅れが引き起こす3つの問題
1. ビジネスチャンスを逃す
例えば、ある日系企業が東南アジア市場で新規取引を進めていた。現地の小売チェーンから「この商品を〇〇個仕入れたい」というオファーがあったが、以下のような問題が発生した。
責任者が「本社に確認しないと決められない」として、契約を即決できなかった。
競合企業(韓国・中国企業)は、その場で契約を決定し、取引を成立させた。
結果、自社はビジネスチャンスを完全に失い、取引先からの信用も低下した。
2. 取引先の信頼を失う
本社の承認待ちが長引くと、取引先から「決断が遅すぎる会社」と見なされ、敬遠される。
「この会社と取引すると、何を決めるにも時間がかかる」と判断される。
競争環境が厳しい海外市場では、スピード感のない企業は自然と取引対象から外される。
ひとつの商談を失うだけでなく、今後の新規案件の機会すら奪われる可能性がある。
3. 現場の士気が低下する
決断する権限がない:現地の責任者は「どうせ決められない」と判断し、指示待ちの姿勢になる。
柔軟な対応ができない:本社の許可を待つ間に、市場の状況が変わってしまう。
積極性が失われる:「何かを決めるたびに本社の承認が必要」となると、現場はリスクを取らなくなる。
その結果、組織全体が「待ちの姿勢」となり、競争力が低下する。
解決策:スピード感のある意思決定を実現するために
1. 現地の責任者に一定の決定権を持たせる
成功する企業は、「本社の指示待ち」ではなく、現地の責任者に裁量権を与える仕組みを整えている。
500万円以下の取引は現地決定可能 など、承認不要の範囲を明確にする。
「決めること」と「報告すること」を分ける 価格調整や取引条件の交渉は現場で決定し、後で本社に報告する方式にする。
事前に決定範囲をすり合わせる 本社と現地が「どのレベルの決定なら現場判断でOKか」を事前に明文化する。
2. 本社の承認プロセスを合理化する
電子承認システムを導入 「紙の稟議書」「上層部のサイン待ち」をなくし、スムーズな決裁を可能にする。
本社の承認期限を設定 「本社の承認には1週間以内に結論を出す」といった明確なルールを設ける。
基本条件の調整は現場で行い、本社は最終確認のみ とする。
3. 現地責任者に経営視点を持たせ、判断力を鍛える
売上・利益目標と連動した意思決定権を持たせる 例えば、「○○の範囲内であれば、現場の判断で決定してOK」というルールを導入。
本社との連携を強化 「何が重要な判断基準か」を共有し、迅速な判断ができる環境を作る。
「駐在員」ではなく「経営者」としての意識を持たせる 研修や経営会議を通じて、責任者が主体的に決断できる環境を整える。
8. 予算計画が”ずさん”すぎる
「とりあえず進出して、売上が伸びたら考える」という場当たり的な戦略は、海外展開において最も危険な考え方の一つである。
海外市場では、想定以上にコストがかかることが多く、特に以下のようなリスクがある。
事前の予算計画がずさんだと、これらの予期せぬコストに対応できず、資金ショート→撤退という最悪のシナリオをたどることになる。
事例:資金計画の甘さで撤退に追い込まれたケース
ある日系企業が東南アジアに進出し、現地法人を設立。「市場の成長性が高いから、すぐに売上が伸びるだろう」と考え、事業計画の詰めが甘いまま進出を決定した。しかし、以下のような問題が発生し、わずか2年で撤退に追い込まれた。
1. 黒字化のシナリオが曖昧だった
進出前に「何年で黒字化するか?」のシミュレーションを行っていなかった。
事業開始後、予想以上に販路開拓や営業活動に時間がかかり、売上が伸びなかった。
結果、資金繰りが悪化し、追加投資をせざるを得ない状況に。
2. コスト管理が甘く、資金が尽きた
オフィス賃料や人件費が想定以上に高く、当初の予算を早々に消化。
広告・マーケティング費用も計画不足で、効果の薄い施策に無駄な資金を投下。
現地の競争が激しく、値下げせざるを得ない状況になり、利益率が低下。
3. 撤退コストも想定しておらず、大きな損失を出す
撤退時に、オフィスの違約金や人員整理のコストが発生。
「撤退するなら、最初から進出しなければよかった」と後悔する結果に。
このように、最初の資金計画が甘いと、事業が成功する前に資金が尽きるリスクが高くなる。
解決策:いつ黒字化するのか、どこまで投資できるのかを事前に明確にする
海外展開を成功させるためには、綿密な予算計画が不可欠である。
特に、以下のポイントを押さえた資金計画を立てることが重要だ。
1. 黒字化のタイミングを明確にする
進出後、売上・利益がどのタイミングでプラスに転じるのかを事前に計算する。
「最初の2年は赤字覚悟」「3年目で単月黒字化」「5年目で累積損失を解消」といったロードマップを明確にする。
「売上が思うように伸びなかった場合」「競合が予想以上に強かった場合」など、最悪のケースを想定したプランを作る。
赤字が長引いた場合の追加資金投入の判断基準も決めておく。
2. 初期投資と運転資金を厳密に計算する
オフィス設立費、登記・ライセンス費用、人件費、物流コスト、広告宣伝費、法務・税務コストなど、細かい支出を漏れなく計算。
現地の人件費・賃料は年ごとに上昇する可能性があるため、数年後のコスト増も考慮する。
予想売上が計画通りにいかなくても、最低2年間は資金が回る体制を作る。
資金調達の手段(銀行融資、投資家からの支援など)も事前に検討。
3. 撤退基準を明確にする
「○年経っても黒字化しない場合」「売上が○○%以上成長しなかった場合」など、撤退基準を数値化する。
撤退時のコスト(違約金、人員整理費、在庫処理費)もあらかじめ計算し、最悪のケースを想定しておく。
「撤退する場合の撤退戦略」も事前に決め、ズルズルと赤字事業を続けないようにする。
例えば、「赤字が3年以上続く場合は、別の市場への転換・事業縮小・撤退を検討する」などのルールを決める。
まとめ:海外進出は慎重に設計しよう
海外市場への進出は、新たな成長機会を生み出す一方で、多くの企業が準備不足や安易な判断によって失敗している。
成功する企業と失敗する企業の違いは、最初の設計段階でいかにリスクを洗い出し、戦略を練ることができるかにかかっている。
「とりあえず市場が伸びているから参入する」「売上が伸びたらそのときに考える」といった場当たり的な進出では、高確率で撤退を余儀なくされる。
今回紹介した「海外進出で失敗する8のパターン」を避け、自社に最適な戦略を慎重に設計することで、以下のような成功の確率が格段に高まる。
海外市場では、スピード感を持ちつつも、慎重なリスク管理を行う企業が生き残る。「勢いで進出する」のではなく、「成功のシナリオを描いた上で進出する」ことが、勝ち残るための唯一の方法である。
この8のポイントを踏まえ、しっかりと準備を整えた上で海外展開に挑戦すれば、成功の確率は大幅に向上するはずだ。