生活保護(5)保有を容認された自動車の利用制限が「ほぼ」無くなりました *厚労省の事務連絡も載せています

厚労省が令和6年12月25日に出した事務連絡「「生活保護問答集について」の一部改正について」
https://drive.google.com/file/d/1MpFgktdeeJiQ0EtEUP636mUQK7lxAddp/view?usp=sharing

1 これまでの経緯

これまで取り組んできた生活保護における自動車保有の問題が大きく動きました。 保有を容認された自動車について、障害のある方や公共交通機関が利用困難な方は買い物などの日常生活にも使えるようにするという事務連絡を厚生労働省が出しました。

もともと保有が容認された自動車について、利用制限をする規定はありませんでした(半年以内に保護から脱却することが確実に見込まれる場合の処分留保について求職活動に制限されるという規定があるだけでした)。
しかし、厚労省は、保有を容認した目的(通院や通院)にだけ自動車を使って良いという趣旨の令和4年5月10日付け事務連絡「生活保護制度上の自動車保有の取扱いについて(注意喚起)」を出しました。

https://x.com/seiho_infogroup/status/1524594133263740928

これは札幌市が、障害を理由として保有を認められた場合には日常生活での利用を認めるとしていたことを否定し、保有容認目的に限るとするものでした。
この事務連絡については生活保護問題対策全国会議などが撤回を求めましたが、動きませんでした。

この事務連絡のせいで現場では混乱が生じました。 その一つが三重県鈴鹿市での裁判です。80代の母と50代の息子の世帯について、息子の通院だけに自動車の保有を認め、それ以外の利用が無いかを調べるため、運行記録票の提出を求めました。その提出が負担であり、応じなかったことから保護停止となり、それを争う訴訟に発展しました。 私も弁護団の一員として戦いました。
この訴訟では、津地裁・名古屋高裁ともに勝訴しました。両判決は保有目的以外にも利用する必要性を認めており、厚労省の事務連絡を否定するものでした。 こういった判決の存在も、令和6年12月の事務連絡につながったと考えます。

2 事務連絡の内容

この事務連絡は生活保護別冊問答集に問3-20-2「保有が認められた自動車の他用途への利用」を新設するとしています(そのため、今年に出る別冊問答集に収録されるはずですが、それまでは事務連絡そのものを参照する必要があります)。
そして「障害(児)者の通勤や通院等のために保有が認められた自動車の場合」については「障害(児)者又はその家族若しくは常時介護者が障害(児)者のために日常生活に不可欠な買い物等に行く場合についても、社会通念上やむを得ないものとして、原則として自動車の利用を認めて差し支えない」とし、日常生活への利用を認めています。なお「原則として」とされているのは遊興のための利用は認めない、とする趣旨です。

一方、「公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者等の通勤や通院等のために保有が認められた自動車の場合」については「日常生活に不可欠な買い物等について、地域の交通事情や世帯の状況等を勘案して、低所得世帯との均衡を失しないと保護の実施機関が認める場合には、自動車の利用を認めて差し支えない」として一定の留保を付けています。
ただ、公共交通機関の利用が著しく困難な地域の場合に、買い物だけが不便ではないことは無いでしょうし、近隣の低所得世帯も自動車利用をしているはずで、利用を認めても低所得世帯との均衡を失することは無いはずです。
なので、この要件を限定的に解釈する運用が見られた場合は、十分に争うことができると考えます。

また、事業用については、事業以外の利用は認めないとしています。

3 残る問題

この事務連絡が出たことで、保有が容認された自動車の利用制限の問題はだいぶ改善しました。
ただ、先に述べたとおり、公共交通機関の利用が著しく困難な地域での扱いには依然として福祉事務所の裁量の余地があり、不当に「日常生活利用を認めない」とする事案が起きる可能性があります。
また、利用制限が認められないわけですから、利用状況を調べる必要も無くなるため、運行記録票の提出を求める必要性は無いはずです。むしろ、不必要にプライバシー情報を集めることになるので、してはならないともいえます。
しかし、「公共交通機関の利用が困難でも日常生活利用を認めない」「運行記録票を提出せよ」という運用をしてくる自治体がある可能性があります。そういった場合はぜひ各地の支援団体に相談してほしいと思います。

また、そもそも生活保護において自動車の保有自体を制限している問題は残っています。この点については、2024年9月19日に日弁連が出した「生活保護における自動車保有・利用の制限緩和等を求める意見書」のように処分価値が小さい自動車であれば生活用品としての保有を認めるよう、引き続き求めていきたいと考えています。
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2024/240919_2.html



いいなと思ったら応援しよう!