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判例評釈「福岡高判令和6年3月22日(判例集未登載)」

第1 事案の概要 1 訴訟の概要  熊本県玉名郡長洲町に居住して生活保護を受けていた原告が、平成29年2月14日付けでなされた生活保護廃止決定処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めた事案である(被告は、原告に対して生活保護を行う福祉事務所を設置している熊本県知事である)。 2 原告らの家族関係  原告は妻、孫(長女の子)の3人で暮らしていた。孫は両親の離婚に伴い、保育園の頃から原告夫婦によって養育されていた。 3 孫の看護専門学校への進学  孫は平成26年

    • 生活保護(4)78条費用徴収決定の及ぶ範囲

      今回は、生活保護法78条に基づく費用徴収決定が及ぶ範囲について考えます。 生活保護法78条1項は以下のような条文です。 一般的には「不正受給」と考えられると思います。収入を認識していたけれど申告をしなかったような場合がこれにあたります。 78条に基づく費用徴収決定(不正受給によって受けた保護費を返すように命じる決定)は、世帯主を名宛人として出されます。 ここでの問題は、世帯主(例えば夫)が亡くなった場合、その他の世帯員(例えば妻)が相続を放棄しても、返還義務を負うのかという

      • 労働問題(2)内部告発前に弁護士に相談する理由

        監督官庁に通報をすればよいのでは、とのご質問をいただきました。 私が考えるに(1)要件検討、(2)証拠収集、(3)行政監視、(4)反撃への対応の点から内部告発に弁護士が関与する意味があると考えています。 まず(1)要件検討です。 内部告発=公益通報については、制度上、まず会社内部で通報し、それが難しい場合に行政機関、さらにそれでもダメだと思われれば外部への通報という順番が設けられています。 最初から行政機関に告発をして問題が無いか、検討も必要です。 https://ca

        • 労働問題(1)内部告発をする前に

          職場の不正がどうにも我慢ならなくて「内部告発をしたい」と思っている人はSNSで拡散する前に、できれば弁護士に相談してください。 告発者に「ノーダメージ」で目的を達したことは何度もあります。 内部告発も、やり方がうまくないと、名誉毀損などで訴えられるリスクがあります。そこをどうやって避けながら不正を暴くか、これは法的な判断と有効な手段のバランスの問題です。 そこは弁護士が関われるところです。 その問題が労働環境(例えば長時間労働)に関わるのであれば、かえって会社に支払わせる

          東北生活保護利用支援ネットワークが秋田市の生活保護費過支給の問題について声明を出しました

          東北生活保護利用支援ネットワークは2024年4月10日付けで「秋田市による生活保護費返還請求に関する声明」を出しました。 秋田市による生活保護費返還請求に関する声明 1 はじめに 秋田市が、精神障害者保健福祉手帳の2級以上を有する世帯に対して支給していた障害者加算について、福祉事務所の過誤によって過払いが生じたとして、過去5年分に遡って返還請求を行うことを示唆している。この過誤払い自体は1995年から28年間にわたって続いたもので、返還を求めた5年間分に限っても約8100

          東北生活保護利用支援ネットワークが秋田市の生活保護費過支給の問題について声明を出しました

          生活保護(3)生活保護利用者もクレジットカードが使える

          生活保護制度の最近の変更としてお伝えしたいのが「生活保護利用者がクレジットカードを利用してもよい」とされたこと。 これまではこのことは明言されておらず、むしろ一般論としては「借金をしてはならない」とされていたことからすると大きな変更ですし、債務整理の実務にも関わります。 生活保護利用者が借入をした場合、借入金額が収入として認定される一方、返済したとしても必要経費とは認定されません。なので、(返して手元に無くても)借りた額だけ保護費を減らされます。 そして、借金をしたことを申

          生活保護(3)生活保護利用者もクレジットカードが使える

          生活保護(2)生活保護法63条に基づく費用返還請求権が免責されないこと(2019年3月5日ツイート)

          生活保護法の改正により、生活保護法63条に基づく費用返還請求権が非免責債権になりました。 これによって、生活保護利用者の方の債務整理にも影響が生じると思います。 現時点では、非免責化前の債権かの見極めと、63条返還額を争うことが対策として考えられます。 生活保護法78条に基づく費用徴収債権は、平成25年改正で非免責化されていました。 平成30年6月1日の改正は、これに加えて63条についても非免責としています。 新設の生活保護法77条の2第2項が、63条債権を「国税徴収の例に

          生活保護(2)生活保護法63条に基づく費用返還請求権が免責されないこと(2019年3月5日ツイート)

          生活保護について(1)収入から自立更生費として控除が認められる(2019年2月24日ツイート)

          生活保護を利用している方の交通事故を受任している弁護士の方にお願いがあります。 損害賠償金が得られたら、それについて自立更生費を認めるよう福祉事務所と交渉してください。そうしないと、当事者は何も得られず、弁護士費用のために損害賠償請求をしたのと同じことになりかねません。 生活保護利用者が交通事故によって慰謝料等を受け取った場合、交通事故後に受け取った保護費は、資力があるのに保護を受けたものとして生活保護法63条に基づく返還請求がなされます。 このとき、弁護士費用等の実費だけ

          生活保護について(1)収入から自立更生費として控除が認められる(2019年2月24日ツイート)

          「世帯分離をして生活保護を受けられないか」と相談をされたときにどう対応するか

          相談の場で「同居の父母は収入はあるんだけど自分にお金を出してくれず病院にも行けない。自分だけ『世帯分離』して保護を受けられないか」のように、同居している人全員の収入を合わせれば生活保護基準を超えるけれど、一人一人の収入に偏りがあるため、収入が少ない人を『世帯分離』して保護を受けられないかという相談を受けることがあります。 さて、『世帯分離』で保護を受けることはできるのでしょうか。 こういった話をする方は、住民票上の世帯を分けること=世帯分離と考えていることが多いです。たしかに

          「世帯分離をして生活保護を受けられないか」と相談をされたときにどう対応するか

          就職氷河期世代だった

          ある事件の被害者が「40代、50代を対象にしたディスコイベント」に参加していたというニュースを見て妻が「ディスコ、私たちの世代じゃないよね。あの頃はどんどん採用が減って就職するのも大変な時期で」と言っていた。 そう、僕らの世代はディスコに行ってないし、なにより就職氷河期世代だった。 思い出すと、僕は就職氷河期世代真っ只中。司法試験も受けようかな、なんて勉強も進んでいないのに考えていたけど、父親が急に病気で大学病院に入院した。親に頼ってはいられなくなったんで3年の半ばから就職

          就職氷河期世代だった

          裁判官の忌避について考えたこと、調べたこと(その2)

          次に、忌避申立ての手続について、調べたことを書いていきたいと思います。 1 忌避の申立ての手続とその後の流れ まず民事訴訟法24条2項は「当事者は、裁判官の面前において弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判官を忌避することができない。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない」としています。 本件では、第1回期日の前に忌避事由があるのではと気付いたため、第1回期日の前に申し立てることにしました

          裁判官の忌避について考えたこと、調べたこと(その2)

          裁判官の忌避について考えたこと、調べたこと(その1)

          平成25年から3年間にわたって行われた生活保護基準の引下げが、生活保護法に違反するとして全国29か所で争われています。私はそのうちの宮城県での訴訟の弁護団の1人です。 仙台地裁に提訴した訴訟は令和4年7月27日に請求棄却の判決が出ています。これに対しては控訴して、仙台高裁に舞台が移りました。 こちら(控訴人)からは控訴理由書を出し、国(被控訴人)から答弁書が出て令和5年4月24日に第1回を迎えるところで、控訴人側から担当裁判官について忌避を出しました。この忌避申立ては却下され

          裁判官の忌避について考えたこと、調べたこと(その1)

          映画「生きる 大川小学校裁判を闘った人たち」

           この間、事務所の弁護士3人で小学生と中学生から「インタビュー」を受けた。その中で「尊敬する弁護士」を尋ねる質問があったが、新里先生も鈴木裕美先生も吉岡和弘先生を挙げていた。  映画「生きる 大川小学校裁判を闘った人たち」の最初の登場人物は、その吉岡先生だ。 https://ikiru-okawafilm.com/  映画の冒頭。震災関連の映像であれば必ず使われる、津波そのものの映像は出てこない。  津波の被害を伝えるのは原告遺族の陳述書だ。親たちは見つからない自分の子ど

          映画「生きる 大川小学校裁判を闘った人たち」

          「未成年者が単身世帯として生活保護を受けられるか」について

          「未成年者が単身世帯として生活保護を受けられるか」について書いてみました。 1 はじめに  まず、「未成年者は単身で生活保護を受けられない」というような生活保護法の条文や厚労省の通知等はありません。  むしろ、生活保護法2条は「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる」という無差別平等原則を定めていて、生活保護基準を下回る資力しかなければ単身の未成年者に対しても生活保護を適用することになりま

          「未成年者が単身世帯として生活保護を受けられるか」について

          「シェアハウスなどで1つの部屋に複数人が生活している場合の生活保護費の算定」について(2023年1月8日追記あり)

          「シェアハウスなどで1つの部屋に複数人が生活している場合の生活保護費の算定」について、以下のように検討をしました(特定の事案について何らかの結論を書いたのではなく、一般論として書いています)。   1 世帯の同一性について 生活保護費は数人が1つの世帯になると、スケールメリットを考えて額が調整されています。そのため単身世帯3軒の生活保護費と、3人世帯の生活保護費を比べると(その3人が同一の条件だとした場合)前者の方が高くなります。 では、数人が同じ部屋で暮らしている場合、世帯

          「シェアハウスなどで1つの部屋に複数人が生活している場合の生活保護費の算定」について(2023年1月8日追記あり)

          提案理由

          日弁連の会則に37条の2を加える提案をしたいと考えています。 その理由は以下のとおりです。 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、本年度の総会は当初は令和2年7月31日とされていたところ、9月4日に延期を余儀なくされた。また、延期後に開催された総会についても、首都圏における感染拡大の状況から、地方会からの参加を躊躇する声もあり、議決権の代理行使の委任を受けていた地方会の会員から、東京三会に所属する会員に復代理することを認める形を取ることとなった。 新型コロナウイルスの影響が

          提案理由