「世帯分離をして生活保護を受けられないか」と相談をされたときにどう対応するか
相談の場で「同居の父母は収入はあるんだけど自分にお金を出してくれず病院にも行けない。自分だけ『世帯分離』して保護を受けられないか」のように、同居している人全員の収入を合わせれば生活保護基準を超えるけれど、一人一人の収入に偏りがあるため、収入が少ない人を『世帯分離』して保護を受けられないかという相談を受けることがあります。
さて、『世帯分離』で保護を受けることはできるのでしょうか。
こういった話をする方は、住民票上の世帯を分けること=世帯分離と考えていることが多いです。たしかに住民票の世帯を分けることで介護保険や国民健康保険での扱いが変わる(例えば保険料が下がる)ことがあります。
ただ、生活保護の場合は少し異なります。生活保護では住民票のような形式ではなく、生活の実態を重視します。なので、住民票を分けたとしても同居をしている状況が変わらなければ、1つの世帯として見ることになります。そして、世帯としての収入が生活保護基準(最低生活費)を超えていれば、生活保護を利用することはできません。
なお、生活保護制度の中でも限定的ですが、同居している世帯の一部だけを保護する「世帯分離」が認められる場合があります。正確な表現や詳しい要件は生活保護実施要領の局長通知第1・2と第1・5を見てもらいたいのですが、本当にざっくりいうと以下のように整理できます。
(1)稼働能力があるのに収入を得る努力をしない者がいるけれども、他の世帯員は真にやむを得ない事情によって保護を要する(例:成人の子は求職活動を全くしようとしないが、高齢な父母は困窮していて保護を要する)。
(2)保護を要する者が、生計保持義務関係にある者がいない世帯に転入した(例:全く資産も収入も無い人が、親族関係が無い人の家に短期間という約束で居候を始めた)。
(3)日常生活の世話を目的として保護世帯での同居を始めた(例:生活保護を受けている親の介護のために、子が同居をすることとした)。
(4)6か月以上の長期の入院・入所が見込まれる。
(5)「夫婦」や「親と未成熟な子」のような関係にはなく、結婚や転職等で1年以内に出て行く予定がある。
(6)大学や専門学校に進学する。
逆にいえば、上記の(1)~(6)にかすりもしなさそうな場合には「世帯分離」によって保護を受けることは難しいことが多いと思います。
では、家族とは別に生活保護を受けるのだとするとどういう方法が考えられるかというと、先ほど述べたように生活保護は同居の実態があれば世帯を同一と見るのですから、別居をする必要があります。
例えば、①部屋を借りて別居を始める、②友人や親戚宅に一時的に居候をさせてもらう、③路上生活者支援などのために設けられたシェルターに身を寄せるなどをした上で、そこから生活保護を申請することが考えられます。ただ、①は部屋を借りる資金、②は居候をさせてくれる友人や親戚、③は住んでいる自治体や近隣の自治体での施策と「家を出る勇気」が必要で、必ずしも誰でもできるわけではないのが難しいところです。
根本的な解決としては、生活保護を世帯単位ではなく個人単位で受けられる制度にしていくことが必要だと考えています。