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【想ひ出】ロッキーにダウンを奪われた日

以前、【看護師あるある】で手術室勤務時代のことを少し書きました。

今日は、それにまつわるお話を。


手術中にかける音楽で忘れられないのが、腎臓内科のK先生。

K先生は、いつも手術室に入ってくると真っ先に有線の機械のところへ行き、番組表を見ながらチャンネルをカチャカチャいじるのが習慣でした。

ある日は、ケルト音楽。別のある日は、ヒーリングミュージック。

とにかく、その日の気分に合わせて音楽を選ぶのがK先生の常でした。


私はある日、K先生が執刀するA-Vシャント造設術に器械出しでついていました。

A-Vシャント造設術とは、血液透析を行う患者さんの腕の動脈(A)と静脈(V)を縫い合わせる手術です。

血液透析時に針をシャント部分に穿刺し、ここから血液を体外に抜いて透析器で濾過したあと、再びシャント部から体内にきれいにした血液を戻すのです。

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問題のその日。K先生のチョイスは、“ロッキーのテーマ”でした。

有線ていろんなチャンネルがあるんですよね。この日、K先生が選んだチャンネルはひたすら“ロッキーのテーマ”を流すものでした。一曲終わったかと思えば、また、“チャ〜、チャ、チャ、チャ〜、チャ、チャ、チャ、チャ、チャ〜♪”と始まり、永遠にロッキーのテーマが流れ続けるのです。

曲が3クールめに入った時、手術開始から15分ほどしか経っていませんでしたが、既に私の集中力は無くなっていました。

K先生も「今日は、選曲ミスったなぁ…」とぼそり。


そして、事件は起こりました。

手術で使う針や糸は、数字が大きくなるほど小さく細くなっていきます。

A-Vシャント造設で使う針糸は、動脈と静脈を縫い合わせるときに使う7−0と、最後に皮膚を縫合するとき用の5−0です。

7−0の針はとても小さいため、眼科用持針器に把持して渡します。

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一方の5−0は、ヘガール持針器という器械に把持します。画像3


ロッキーのせいで集中力のなくなった私は、最後の皮膚縫合でとんでもないミスをやらかしました。

K先生に5−0の針糸を渡した時、一瞬、違和感を覚えました。が、何が違うのか考える間もなく、K先生の手に持針器を渡してしまいました。

「え〜っ!!」

というK先生の声に、「へっ?」と目を向けると、、、

なんと、ヘガールで渡すはずの5−0を眼科用持針器に把持して渡してしまったのです。

「すいません、つい、うっかりしてました!!」

と、慌てて器械を付け替えて渡し直しました。

K先生からは何もお咎めはありませんでしたが、外回りでついていた先輩からは大目玉を喰らいました。

「あり得ないから、あんなミス!!」

と怒る先輩に、「ロッキーのせいです」とも言えず…。


いつ、いかなる時も冷静に。

それが、”プロフェッショナル”というもの。

延々と続くロッキーに、あっさりダウンを奪われた私は、看護師失格と言われても仕方ありません。


今でも“ロッキーのテーマ”を聞くと思い出す、手術室時代の苦い【想ひ出】です。

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