日仏デザイン論 ~ 広告におけるシズル感の考察
私は学生の頃、視覚デザインというグラフィック関係全般に関わるデザインを学んでいる美大生でした。
同期卒業生はもちろん大半が広告デザインやエディトリアルデザイン、パッケージデザインなどに進む中、私自身は現在縁あってフランスで製造業カラーデザイナーをしています。
そんな私ですが、フランスのコマーシャルを見ていると、どうも自分のテンションがそこまであがらないことに気づき。
食べたい!!とか、こんなところ行きたいなぁ〜、と言った強い欲望みたいなものが、いまいち盛り上がらないのです。
最初はデザインというより言語の壁かなぁと思っていたのですが、最近思うにどうやらこれは
「 シズル感 」
の違いなのでは無いかと言う結論に至りました。
シズル(sizzle)という言葉は、日本では嗅覚や触覚も含めた「五感を刺激するおいしさの表現」の造語として使われています。
一方、このままダイレクトに翻訳すると
(of food) make a hissing sound when frying or cooking.
と出てしまいます。少し日本語の解釈と異なり、特にお肉を焼く時のようなジュージューという音のことを指すようです。
日本の代表的なシズル感広告といえば、私はまず最初に「永谷園のお茶漬け」が思い浮かびます。
湯気がもうもうと立ち上がる中、細かな説明は一切なく、
( 鳴り響く電話の音 )-----------
ズズッ ハー‥ ズズッ ハー ‥ フー‥ (間)
・・・ 永谷園のお茶漬け。 終
お茶漬けを啜るシーンだけが流れる。ただそれだけなのに、飯テロ級の破壊力。
コマーシャル意外にも、孤独のグルメ等のドラマ、食レポバライティ番組等にも、日本ではこういった表現が多く見られるように感じます。
ゆげハフッハフ、チーズとろーり、キンッキンに冷えたビール・・・。フランスの広告では、まずこういった表現を見たことがありません。グルメ大国なのに、少し意外な感じもしますよね。
私なりの考察をいくつか考えてみました。
■アツアツ&キンキンといった、「温度を楽しむ」料理という概念があまり無いこと
意外かもしれませんが、フランス料理において熱熱の料理を提供されることはあまりありません。ビールも日本のようにグラスまでキンキンに冷えたものは存在せず、日本人からすると「なんだよもっと冷やしてくれよー!」と言いたくなることも多々あります。
理由は
・食材の本来の味や香りを保つため
・コース料理を前提とした文化の名残
・そもそも食事にかかる時間が長く、温度を保てない
などなど諸説ありますが、たしかにフランス人は大半が猫舌で、辛いものを含めた刺激的な味や極端な温度差のある料理が苦手な傾向にあると思います。
その結果、あまりシズル感のような表現方法が好まれないのでは?という考察が1つ。
■生っぽいシズル感よりも、ストーリー重視
グルメの国でもありますが、お洒落大国でもあるフランス。
シズル感は人間の根本的な欲望を駆り立てる力があると思いますが、表現手法としてはやや直接的というか、生っぽい手法でもあると思います。
一例として、フランスのCMを見てみましょう。
子供との可愛いユーモラスなストーリー展開によって、味を直接的に表現するよりも、遠回しではありますがこのチョコレートムースがどれだけ子供を虜にしているかが伝わってきます。
こういったお茶目なストーリーテーリングは正にフランスならではという感じ。モノ中心のダイレクトな表現よりも、暗に匂わすくらいのニュアンスが好奇心をくすぐるのかもしれません。
■仕事においても感じるのは、パワーポイント1つとっても、日仏で編集のポイントがかなり異なると言う点です。
日本人的なパワポ作成で一般的なのは、お洒落さよりも「分かりやすさ重視」。また、一枚のページに情報量を詰め込む傾向にあると思います。
シズル感は流石にパワポでは感じづらいですが、なるべく日本人ならではの「物事全てを正確・的確」に伝えようと言う意思を感じます。
一方、海外アプローチのポイントは、「シンプルに言い切る + 少しのジョークを加える」こと。
パワポは一枚の情報量自体は少なく、多少文字が見辛くても(正直ほとんど見えなかったりもする)、レイアウトのオシャレさ重視という印象。
そのかわりに、プレゼのトークで補っていくようなイメージです。
そこで欠かせないのが「少しのユーモア」。少しの、と言うのがポイントです。
どんなシリアスなプレゼであっても、会話のユーモアはフランスにおいてプレゼに欠かせない要素のように感じます。短いプレゼでも1-2回、ユーモアを見せるポイントがあると検討が上手くいく印象です。たまに失敗して滑っているケースも、もちろん見かけますが…
上手くまとまってませんが、またこういったデザイン考察をアップデートしていきたいと思います。
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