安定企業を退職し、NYで飛び込み営業。人気ベンチャーを経てフリーになった理由
本業1社にとどまらず、さまざまな企業で自身の能力や経験を活かして新たな活躍の場を広げる「複業人材」を紹介する本シリーズ。第6回目に登場するのは「食で日本と海外を繋ぎたい」という夢を持ち、複数の企業と協業するタカハシ ナオコさんです。タカハシさんは新卒で大手生命保険会社に入社するも「このままでいいのだろうか」と3年後に退職。ニューヨークの現地企業で飛び込み営業を経験して帰国後、WAGYUMAFIA JAPANで代表パーソナルアシスタントやEC責任者を担い、夢を実現するためにフリーランスになります。将来の独立を見据えてどのように複業をしているのか、複業する面白さは何か、キャリアに迷う方に複業を勧める理由を伺いました。
新卒で入った大企業を退職し、ニューヨークで飛び込み営業
― タカハシさんの自己紹介をお願いします。
私は新卒で大手生命保険会社に入社し、首都圏支社の人事部で営業職員に向けた人事事務や総合企画を担当しました。当時、9時〜5時勤務と安定した職場で働いていましたが、将来のキャリアを考えると違うことに挑戦したくなり「この会社で3年働いたら海外に行く」と決めていました。会社を退職してフィリピンで語学を学び、カナダで翻訳・通訳の資格を取得した後、ニューヨークの現地企業2社でインターンとして働きました。飛び込み営業や代表アシスタント業務、取材・執筆などを経験し、就労ビザが終了するタイミングで帰国しました。
海外に滞在していた頃から独立を考えるようになり、日本で実業家として名の高い堀江貴文さんが主宰するオンラインサロンHIU(堀江貴文イノベーション大学校)に参加しました。そのサロンで完全会員制の高級焼肉店「WAGYUMAFIA」を知ったんですよね。もともと母が日本料理の師範であることも影響して「食」に興味があり、生命保険時代には日本料理を習っていたことから、食で日本と海外を繋いでいるWAGYUMAFIA代表取締役の浜田寿人さんのもとで経営を学びたい、これで最後のサラリーマンにしようと入社しました。
WAGYUMAFIAでは主に浜田さんのパーソナルアシスタントとバックオフィスを務めました。インバウンドを対象とする当社では私以外は全員シェフだったため、コロナ禍ではオンラインショップの立ち上げや、ホリエモンチャンネル「肉磨き」の配信をサポートしました。オンラインショップが月商1000万円を達成し、年商1億円の売上が見えたタイミングで、お世話になったWAGYUMAFIAを退職してフリーランスになりました。
― タカハシさんが「食で日本と海外を繋ぎたい」と思い描くようになったのはなぜでしょうか。
私は生まれも育ちも東京で、おいしいお料理屋さんが並んでいる環境が当たり前でした。ところが、小学生の頃に親戚の住むアメリカへ行き来していると、アメリカ人がラーメンや焼き肉を日本食だと勘違いしている。ニューヨークの現地企業で働いていた頃も、他国の方が日本風の居酒屋で日本食とは言えない食事を楽しんでいる。そんな経験から「本当の日本食の魅力を知ってほしい」「無形文化遺産に選ばれ、長寿の秘訣でもある健康的な食事は、日本食以外にはない」と、食のコミュニティーを作って発信していきたいと痛感したんです。
― 現在(2024年2月)はフリーランスとして複数の会社と協業していらっしゃいます。
現在、ATOMica(アトミカ)ではコミュニティマネージャー、生成AIのスタートアップでは社長秘書、また、アフタヌーンティー専門店では外部顧問として飲食アドバイザーを担当しています。大手不動産が中心となって推進する、渋谷駅開発プロジェクトの複合施設ではフードエリアのコミュニティマネージャーを務めたり、クリエイターを基盤に日本と海外を繋ぐサポートをしたりしています。
― お休みの日では、どのような過ごし方がお好きですか?
行ったことのないお店を訪問したり、食べたことのない料理を試したりすることが好きです。また「この方とこの方が会ったら面白そうだな」と想像してお食事会もセッティングしていますね。人と人は「おいしい時間」で繋がると考えていて、私自身が実験感覚で楽しみながら皆さんを食事に巻き込み、新たなコミュニティをつくっています。
複業する醍醐味は、私を通じて業界同士が初めて繋がること
― タカハシさんは将来の独立を見据え、複業を開始なさったんですね。
はい。WAGYUMAFIAを退職する時「Qちゃん(タカハシさんの愛称)はエンジニアやデザイナーみたいに職人的スキルがないのに、なぜ独立したいの?」と聞かれました。当初はその答えを模索していましたが、WAGYUMAFIAに勤務したことや、ニューヨークで飛び込み営業をしたことなど、同年代とは異なるキャリアを歩んできたことが私の強みだと確信するようになりました。スタートアップ創業期で無茶ぶりに対応してきたし、バックオフィスや広報、人事の仕事では依頼へ「NO」と言わずに対応できる。WAGYUMAFIAでお世話になったお客様に退職のご挨拶をしたり、求人に応募したり、経営者の方々と話したりするうちに複数社からオファーを頂き、フリーランスの活動を開始しました。
― タカハシさんのように自力で判断して動いたり、多忙な環境でも成果を上げられたりする複業人材を求めるスタートアップは多くいらっしゃいますよね。
ありがとうございます。最初「フクギョウ」と聞くと主・副の「副業」、つまり本業とサブをイメージしていましたが、堀江さんが究極の複業家でWAGYUMAFIAや宇宙ロケット開発、パン屋などのプロジェクトを同時進行しているのを間近で見て、私も複数の「業」として各社から頂く仕事を全て対等に遂行しています。
― 複数の会社と働くメリットや、大変だと感じることをお聞かせください。
メリットは2つあります。まず、自分とは異なる価値観を持つ方に出会えること。「こういう選択肢もあるんだ」を知る機会や、新たに挑戦する機会が増えていますね。2つ目は、普段は出会うことのない業界同士が、私を通じて繋がること。例えば、渋谷の複合施設でコミュニティマネージャーをしている経験や視点をATOMicaの仕事にも活用したり、「この業界のこれは貴社にも応用できます」と提案したりすることで(いずれも公開できる範囲内で)、業界間や会社間に新しい風を吹き込むことに喜びを感じています。
一方、それぞれの複業先から同時にご依頼いただくことは頻繁にあります。「この日までにこれに対応してほしい」と言われたら、基本的には全て自分で完遂し、混み合ったタスクやスケジュールをスッキリさせていますが、慌ただしい時はタイムリーに相談して納期や対応範囲を調整しています。
― それぞれの複業先の会社と円滑にお仕事を遂行する秘訣は何でしょうか。
コミュニケーションを活性化して各社との信頼構築に励んでいます。私はコミュニティの最小単位を「3人」と考えているため、自ら「3人会」と名づけた集まりを考案して社員の皆さんをランチにお誘いし、業務時間外でも会食しながらカジュアルに話す機会を作るようにしています。
― コミュニティは3人から生まれる、素敵なお考えですね。初対面の方にお声がけして仲良くなる姿勢を見習いたいです。
ありがとうございます。私も昔は人見知りで、完成されたコミュニティに途中から入ることが苦手でした。ただ、堀江さんもおっしゃっていたように、国や会社はお金や環境を与えてくれますが、人間関係を与えてくれません。ニューヨークで飛び込み営業をしていた頃、努力してニューヨーク勤務を勝ち取った日本人の駐在員は家や生活環境を与えられていましたが、現地で友達を作れずに悩んでいました。そこで、私は自分の生まれた年から「89年会」を立ち上げ、「ここに来ればいつも誰かがいますよ」と進んで声をかけていました。
「ここで働いていて、いいのかな」迷うなら複業をしてみよう
― 今後、どのようなキャリアを歩んでいきたいとお考えですか?
小さい頃から「It’s a small world」が好きで、食をテーマに日本と海外が平和に繋がっていくコミュニティのプラットフォームを作りたいです。現在、自分のやりたいことを先にやっている方がいないため、夢の実現に向けて試行錯誤しながら歩んでいます。堀江さんは遊ぶように仕事に勤しむ方で、私もフリーランス2年目になって仕事とプライベートの境界線が薄くなり、一つ一つに楽しく向き合っています。
― 「複業をしてみたい」と考える方とスタートアップをマッチングするATOMicaの新サービス「おためし複業」には、どのような魅力があると思いますか?
スタートアップの人材不足を解消したり、社会人が抱く複業への心理的ハードルを下げたりできると考えています。大手企業に新卒で入社した友人も「このままここで働いていいのだろうか」と迷っているため、キャリアの選択肢を増やす第一歩として「おためし複業」を勧めたいですね。
― 複業人材を活用する大手企業も増えているように思います。特に、最近ニュースになっていた、大手メーカー2社が若手・中堅社員を相手企業へ相互に派遣することで新たな知見や技術を生んでいる取り組みも新鮮ですよね。
働き方や価値観の多様化により、似たような思考を持つ社員で構成された組織よりも、プロジェクト単位でプロフェッショナルな複業人材が集まると今までにないアイデアを創出しやすいかもしれません。それに、複業で非日常体験ができるのもいいですよね。普段とは違う世界を見て「面白そう」「自分にもできそう」と感じたら行動するきっかけになるので、「やってみない?」と友人知人を誘っています。
1社で正社員として働いているものの「実は複業をやってみたい」とひそかに希望している方は6割くらいいると感じています。どうやって情報収集をしたらいいのかが分からない、自分の強みが分からない、伝手がない方はこの「おためし複業」で、複業に必要なスキルやレジュメの作成方法を学ぶ「育成カリキュラム」を受講できるし、コミュニティを介して求人情報を手に入れられます。私が複業を始める時にもこんなサービスがあったらよかったのに、と思っているくらいです。
― 最後に、複業をやってみたいと考えていらっしゃる方々へメッセージをお願いします。
会社で培ってきたスキル・経験にもっと自信を持っていいと思います。皆さんと同じように悩んでいる友人がいたら「あなたのこのスキルを求めている会社を知っている。複業に興味があったら試してみない?」とカジュアルに提案するでしょう。人は自分に興味を持って見てくれることに安心するし、嬉しくなりますよね。ましてや社員の複業を認めている会社に所属していらっしゃるのであれば「NO」と断る理由はないはずです。
― タカハシさん、お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
(取材・文:佐野 桃木)
※ 複業を試してみたい方や、どのスキルで複業すればいいのかを迷っている方は、以下のフォームよりお気軽に「おためし複業」へお申し込みください。
https://forms.gle/RRHnxb4o7iJMQJGe7