日本が秘める魅力的な観光・体験を顧客に届けるJ-CAT。採用ミスマッチを防ぐ複業を活用
スタートアップの事業成長の加速化でカギを握るのは、即戦力人材。そんな優秀な人材を迅速に巻き込める手段として「複業人材の採用」があります。今回はJ-CAT株式会社 代表取締役CEO / Founderの飯倉 竜さんに、J-CATが正社員登用の前段階で複業採用を活用する背景や、人材の見極め方、また今後の事業戦略を伺いました。
日本の魅力を体験できるプラットフォームを提供
― J-CATの事業概要を教えてください。
J-CATでは、国内外のお客様が日本の魅力を体験できる企画を提案し、お客様がインターネットでスムーズに予約できるプラットフォーム「Otonami(国内向けハイエンド体験予約サイト)」や「Wabunka(インバウンド向けハイエンド体験予約サイト)」を提供しています。私たちは事業者の想いを伝える、また、お客様にご満足いただける体験を提供することに重点を置き、国内では日本の伝統・文化に造詣の深い40〜50代の女性、海外では欧米圏の観光客を中心にご利用いただいています。
― J-CATのサービスを利用するお客様には、どのようなニーズがありますか?
お客様が高品質な体験を探しても情報が集約されたプラットフォームがないことや、お店に直接問い合わせて予約しなければならないことが課題だったため、私たちはお客様と事業者がスムーズに接続できるプラットフォームを構築しています。また、最近ではさまざまな価値が生まれていて、例えば一休.comでは即時に割引として利用できるポイント、百貨店では「ここで買えば間違いない」という信頼性、さらには「このサイトを使う私は社会的に意味のあることをしている」「このサービスに共感した」と、サービスへの支援や共感を理由にサービスを利用するお客様が増えています。
―J-CATでは 職人の方や神社・仏閣の方、飲食の方、建築関係の方など、お客様に特別な体験を提供できる方を「事業者」と呼んでいらっしゃいます。事業者の方々からはどのような声が上がっていますか?
「Otonami」や「Wabunka」を通じて事業者が文化教養の高いお客様に特別な体験を提供することで、顧客接点(企業が提供する商品やサービスと顧客が接する機会)を持ち、事業者やブランドのファンを作って繋がりを強化できるようになったとご好評いただいています。また、J-CATは主に成果報酬型プラットフォームを提供しているため、事業者から商品・サービスを買い取るのではなく、彼らが主体的に企画を考えて意思決定することをサポートしています。
― 飯倉さんの自己紹介をお願いします。
2012年に大学を卒業し、新卒で住友商事に入社しました。IT関連の営業部を自ら希望して新規事業を立ち上げ、アメリカからIT製品を輸入して国内に販売する営業や代理店業務を担当しました。最後の3~4年間ではCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の研修生としてシリコンバレーに駐在してベンチャー投資やファンド創設に関わり、帰国後は国内向けDXやグループ会社の主幹業務を行いました。私の母が個人事業主として好きな仕事をしていたことや、自分で決めてやり遂げることが好きなことから、大学時代からゆくゆくは自分で会社を経営したいと考えていました。世の中にまだ認知されていない伝統工芸の職人や文化人を支援したいという想いで2019年末にJ-CATを設立しました。
複業期間で人材との相性や適正、主体性を見極める
― J-CATでは、いつから複業人材の採用を開始しましたか?
2年前からです。事業フェーズによってエンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーといった専門性の高い優秀な人材を正社員として採用できなかったため「まずは複業から始めませんか?」と募集を開始しました。J-CATでは書類審査や面談をしっかり行い、スキルや経験がフィルタリングされた方と面接して相性を見ているため、採用後にはミスマッチがあまり発生しません。母集団を形成するために何度も面接の機会を設けてもJ-CATにフィットする人材が見つからない時は、複業で事業に参画したいユーザーが登録する「YOUTRUST」や「Offers」を活用しています。
― 現在(2024年4月)、どのような方々がJ-CATで活躍していらっしゃいますか?
LINEヤフーやリクルート、ウェルスナビのようなITメガベンチャーで上場を経験した方やマネジメントに関わった方、私が前職でお世話になった先輩がいます。前職で経験したことだけでなく「実現したかったけれどできなかったこと」にも挑戦していますね。例えば、あるメンバーは、前職でできなかった地方の特別体験の企画・販売に熱心に取り組んでくれています。
― 複業人材がJ-CATで活躍できるのかを、どのように見極めていらっしゃいますか?
候補者がプロフェッショナルやマネージャー、プレイヤーにかぎらず、J-CATでお互いに気持ちよく働けるか、メンバーやチームとの相性がいいかを見ています。ミスマッチを生まないように複業から各職種に参画していただき、双方が3ヶ月間のお試し期間で納得してから正社員としてジョインしていただいています。この期間では、マネージャークラス以上であれば指示されたタスクをこなすだけではなく、自ら事業の成長に繋がる課題を見つけて解決していく主体性が求められます。課題の選定に正解・不正解はないし、実際に取り組んでみなければその価値は判断できないため、課題を発見して解決するまでのプロセスで価値観が合うかが重要ですね。さらに、私たちから出てこないアイデアや課題解決策が出てくる専門性の高い方には仕事をお任せしたく、複業期間中は「この方だったら間違いない」と確信できるかも見ています。
― 複業でも人材の主体性や専門性、成果を出すまでのチーム連携は大事ですよね。
世の中には本業が忙しい中で複業をしている方も多いですが、本業、複業に関係なく「この仕事に携わる」と決めたら最後までオーナーシップを持ってアウトプットの質で勝負すべきですよね。複業を単なる収入源ではなく、本質的に価値を提供する活動として捉えるといいのではないでしょうか。正社員前提の複業採用は婚約期間の同棲と似ていて、実務を通じて企業と候補者が価値観や目指す方向性、それに対するモチベーションをすり合わせてミスマッチを防ぐのに欠かせません。
「スキルが高いから」で採用すると失敗する
― J-CATの今後の事業戦略をお聞かせください。
お客様からのお問い合わせや予約が順調に増えているため、プロダクトの機能拡張とスケールアップを目指しています。加えて、新規事業の立ち上げも計画しており、来年は大丸東京店に実店舗を開設し、将来的には雑誌の発行やメディアとしての情報発信を計画しています。また、宿泊や飲食を含むサービスを全国各地へ拡大し、これに伴って採用人数も増加させる方針です。特に営業や事業開発、マーケティングでの採用を強化しており、複業人材にはメディア関連の編集職やカスタマーサポート、バックオフィス職を募集していきます。
― 「人材採用で失敗したくない」と考えているスタートアップの皆さんに向けてメッセージをお願いします。
「スキルが高い」というだけで人材を採用するとミスマッチになりやすいですよね。スタートアップ界隈で力説されるカルチャーフィットの重要性は、各社でも再考した方がいいと思います。私たちの社名「J-CAT株式会社」の由来「Japan Culture and Technology」にカルチャーを入れているように、人材が企業の文化や理念に共感し、一緒に目標や夢を追い求められるかをすり合わせると採用は成功するし、事業の将来性や社会貢献にも大きな影響を与えると考えています。
― 「スタートアップで複業をしてみたい」と考えている皆さんにもぜひお願いします。
複業で稼ぎたい方は、スタートアップにかぎらず、中小企業や納品ベースでの仕事も選択肢に含めてもいいと思います。その上でスタートアップで複業したいと希望するなら、それぞれのスタートアップが大事にしているミッション・ビジョン・バリューやパッションを感じていただきたいですね。複業は自己実現に繋がることも多いため、待遇や条件、ポジションへこだわるよりも、ご自分が最も共感する場所を選ぶことをお勧めします。
― 複業人材としてスタートアップに参画するチャンスに出合えるサービス「おためし複業」について、これからどのようになってほしいとお考えですか。
複業サービスが乱立していますが、「おためし複業」には、単に稼ぎたいという動機で複業を希望する方よりも、自分のスキルを社会に還元したいと願う方をターゲットにした母集団を形成していただきたいですね。「おためし複業」のサービスが始まったばかりの段階から「事業や社会に貢献したい」と熱い想いを持った方に限定して集めたら、私たちスタートアップも喜んでサービスを利用すると思います。また「おためし複業」では、その名が示す気軽さとは裏腹に、実際に複業先で活躍している人材は高い当事者意識を持っており、月5万円を目指すことよりも、目の前の仕事に対して真剣に取り組んでいます。結局、これがスタートアップと人材の関係が長期的に続くカギでしょうね。
― 飯倉さん、お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
(取材・文:佐野 桃木)
※ 複業人材の採用についてご質問やご希望のある企業の方は、こちらよりお問い合わせください。
「おためし複業」事務局: otameshi_fukugyou@atomica.jp