ATOMica、複業家育成の新サービスを発進。人材の複業推進で企業の柔軟な成長を支援
スタートアップの事業成長の加速化でカギを握るのは、即戦力人材。そんな優秀な人材を迅速に巻き込める手段として「複業人材の採用」があります。今回は、ATOMicaが2024年1月にリリースした新サービス「複業家育成ブートキャンプ」に参加したTEN法律事務所 弁護士の星野さんに受講した理由、受講後に考えたこと、また、複業によって企業やビジネスパーソンが得られる効果を伺いました。
30社超の日中法人を支える「TEN法律事務所」
― TEN法律事務所の事業概要と自己紹介をお願いします。
私たちTEN法律事務所は平成最後の年である31年に設立した法律事務所で、企業法務を中心に約30社の法人様の顧問をしながら経営者の法律や経営に関するご相談へ対応しています。私が中国語を話せることからお客様には中国の上場企業やその日本の子会社、中国に関連するビジネスを行う企業などもいらっしゃいます。
私は一橋大学MBA経営管理コース修士課程を2024年3月に修了し、TEN法律事務所のほかに四大シンクタンクや別の法律事務所にて経営コンサルティングをする傍ら、個人的にも数社で会社の代表を務めたり出資したりしています。私が経営している会社では私のリソースを取らないような仕組みにしています。
例えば、従業員の皆さんで解決できることは彼らに任せたり、積極的に外注して業務の効率化をはかったり、不動産投資などお金を働かせたりしています。日本では共産主義の考え方をベースに「労働は美しい」と捉える方が多いように思いますが(私自身もそう思いますが)、私は資本主義の考え方をベースに経営や事業推進を行っています。
大学卒業後、東京で4年間システムエンジニアをしていましたが「こんなスピードだったら会社も自分も成長しないのではないか」「やりたいことを実現するためにはどうしたらいいんだろうか」とお金も人脈もない中、独立して成功するキャリアを思い描いていました。「医者や弁護士になったら国家資格を得て国から守られるし、上手くいくはず」と26歳で上智大学法科大学院に入学し、卒業後まもなく司法試験に合格しました。
最初に入った法律事務所は経営戦略を立てることよりも「一人ひとりがいい仕事をすること」に重きを置いていたこともあり「いい仕事とは何だろう。お客様によって違うかもしれない」と考えるようになり、法律事務所を設立して独立しました。
― 「いい仕事」の定義にはどのような違いがあったのでしょうか。
大きく言うと「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の違いです。私は「自分にとっていいこと」よりも「お客様が望むこと」を提供したいんです。お客様は法律をよく分かっていない状態で相談するため、私たち法律の専門家が「これがいいですよ」と提案すると「はい、そうしましょう」と賛同してくださいます。
そうではなく、さまざまな選択肢や事例、メリット・デメリットを説明してお客様の知識水準をある程度まで高めてから選んでいただく方がニーズに応えられるのではないか、と。その方がお客様が安心して意思決定をできるようになるし、この先、お客様が法律の知識を身につけて「あの頃の自分の選択は正しかった」と納得していただけるサービスを提供したかったんです。
「複業家育成ブートキャンプ」で働く意義を問い直す
― ATOMicaでは2024年1月に新サービス「複業家育成ブートキャンプ」を開始し、星野さんや部下のソウさんにも受講していただきました。
さまざまな企業とお付き合いさせていただいていると「非正規雇用は悪の根源」という話を耳にしますが、私はそう考えていません。むしろ個人があらゆる企業と連携することはリスクを低減できるのではないでしょうか。多くのビジネスパーソンは一つの会社だけに雇用されているため、上長からパワハラを受けても家族を養うために辞められず、最終的には業務パフォーマンスが落ちて人事評価が悪くなったり体調を崩したりしてしまいます。一方、複数の企業と業務委託契約を結んでいると、その中の一社と反りが合わなくても全体的な収入が激減することはないし、自分のスキル・能力を多方面で磨くことができます。
私自身は長年そのような働き方をしていますが、この「複業家育成ブートキャンプ」なら改めて複業について体系化して学べると思ったんです。また、TEN法律事務所では従業員の皆さんに辞められたら困るため(笑)日々の業務量はそこまで多くないし、高い報酬をお支払いしているつもりですが、余った業務時間を活用して他企業で新たな経験を積んでもいいんじゃないかな、と。従業員のソウさんも私に「行って来い」と背中を押され、私が顧問を務めるスタートアップに出向しました。
― 「社員が他企業に時間や工数を使ったら本業が疎かになるかもしれない」と心配する企業もいらっしゃいますよね。
確かに、大企業のように従業員数が多い職場ではマネジメントするために組織化したりルールを制定したりするのは仕方ないですね。1人の上司が見られる部下は最多で10人前後だと聞くし、100人を超える部署では現場から数人挟まないとトップと繋がらないためです。
一方、そんなに不安に感じなくてもいいとも思います。もちろん、複業のせいで従業員が職場で居眠りをしたり納期が過ぎても仕事を終わらせなかったりしたら注意しますが、「複業をしていない従業員は仕事を疎かにしない」とも言い切れません。複業を全社的に禁止するのではなく、問題が起きてから対策を考えた方がいい。従業員は寛大な経営者には自ずと付いてくるため、もっと大きく構えてもいいのではないでしょうか。
― 実際に「複業家育成ブートキャンプ」を受講していかがでしたか?
「働くとは何か?」「なぜ人間は働くのか?」「自分はどんな人間なのか」を踏まえ、いかにステークホルダーの皆さんへ知見を還元して社会貢献していくのかを改めて考えさせられました。一緒に受講したソウさんももともと学習意欲がある方で「複業家育成ブートキャンプ」にも進んで受講していましたね。先述のとおり彼はスタートアップも経験しているため、受講後は「そうだろうな」と答え合わせをしながら、働くことに対する姿勢やモチベーションを再確認していました。
労働力の流動化は、複業人材の活躍が決め手
― 若手人材が複業に挑戦できるようになると、企業やビジネスパーソンのそれぞれにどのような効果があるとお考えですか。
企業には複業人材を「出す側」と「受け入れる側」が存在します。出す側からすると自社の従業員が外からさまざまなノウハウを持ち帰ってくるため、社内で思いがけないアイデアが生まれやすくなる。受け入れる側からすると人件費や採用リスクを軽減できる。日本には解雇規制があって正社員を簡単に解雇できないため、コアメンバーを正社員として採用しつつ、専門性の高いポジションでアウトソーシングしたり、有期プロジェクトで業務委託のアドバイザーに参画していただいたりするのも人事戦略としての一手ですよね。
ビジネスパーソンにとっては、複業は会社や世の中を正しく見る目が養われる機会でもあり、他社で複業してみて初めて「うちの会社はおかしいかもしれない」「このスキルが高く評価されるんだ」と発見するでしょうね。さらに「複業先のA社ではこんなルールで上手く回っている」と自社に提言して活躍の場が広がったり自分と相性のいい会社を見つけられたりします。
アヒルは産まれて初めて見たものを親だと認識して付いていく習性がありますが、とかくビジネスパーソンも同じことが当てはまるのではないでしょうか。最初に入った会社を「生きるためにはここしかない」と近視眼的にならないことが、ご自身の飛躍に繋がる可能性が高いですよね。「死ぬこと以外はかすり傷」と発信する方もいらっしゃるように、今の仕事がそんなに辛いのであれば思いきって会社を辞めることも選択肢に入れてもいいのでは、と。日頃から従業員の皆さんに快適な労働環境や条件を提供している経営者であれば「頼むから辞めないでくれ」と引き止められるでしょうね。
― 最後に「複業家育成ブートキャンプ」をどのような方にお勧めしたいですか?
規模の大きさに関係なく全ての会社にお勧めしたいです。自社だけで従業員を上手く育成できない場合もあるし、順調に育成できたとしてもせっかくの戦力が「金太郎飴」になりがちなんです。それがいいという会社もありますが、進んで「外の血」を入れていくことも新たな経営戦略として念頭に置けると思います。「会社が嫌になってから転職を検討する」「労働者を容易に解雇できない」という傾向からも言えますが、日本では他の先進国と比較して労働力の流動性が低いため、気軽に外の血を入れる手段の一つとして、複業人材の採用は活用できるのではないでしょうか。
複業人材を出す側も受け入れる側も、大がかりな血の入れ替えの代わりに他社のいい部分を経験してきてもらう、採用リスクを軽減してスペシャリストに参画してもらうと事業推進がよりいっそう加速できると考えています。
― 星野さん、お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
(取材・文:佐野 桃木)