栗好きになった、きっかけを思い出す
気がつくと、ずっとマロングラッセに憧れていました。
お酒が好きな私。
洋酒と栗、といった組み合わせが
とてもリッチで、大人な食べものに感じたのだと思います。
食器棚の奥には
母お手製のブランデーで漬けたイチゴ酒がありました。
小学生の頃、母に懇願して
一度だけ味見をさせてもらったことがあります。
「ちょっとだよ」
と渡された小さなグラスには
ほのかに赤みがかって、とろりとした液体。
イチゴのほのかな甘酸っぱさと
こっくりとした口当たりとは対照的に
刺激的なブランデーの香りが鼻を通り抜けました。
飲んではいけないお酒を口にしたことで
大人の仲間入りをしたような
誇らしい気持ちになりました。
それをきっかけにして
バッカスやラミー
父がバレンタインにもらってくるボンボンチョコレートなど
すっかり洋酒入りお菓子のとりこになっていました。
その中でもマロングラッセは高嶺の花でした。
どうしてその存在を知ったのか記憶にはないけれど
おそらくこれも、父が持って帰ってきたものだったのかもしれません。
洋酒で作られたお菓子が
一個ずつ、大事そうに黄金色の包み紙でラッピングされていて
キラキラと輝く宝石のように思えてなりませんでした。
でも私、実は、パサパサしたものが苦手。
モソモソしたものが苦手。
喉に詰まるものが苦手です。
いも・くり・なんきん
とはよく言ったもので
これらはパサパサモサモサの一味です。
お察しの通り、イモもカボチャも苦手です。
でも、栗だけは大丈夫でした。
それはお酒に浸かってしっとりしているから。
イチゴ酒をちょっとだけ口にした、あの時のように
一粒のマロングラッセを味わうことは
まるでいけない事をしているかのような
特別な出来事でした。
背徳感からくる高揚感。
惹かれる理由には
そんなものもあったのかも知れません。
ほろりと崩れる栗。
咀嚼すればするほど口いっぱいに滑らかに広がり
奥行きのある、ほんのりと香ばしい洋酒の香りと
まろやかな甘さにじっくりと満たされます。
両手でとろけ落ちそうな頬を押さえながら
ふわりと空中に漂っているような
ゆったりとした幸せな時間に漂う。
いまでもあの時の大人びた味が
記憶にこびりついて離れないのです。