太海浜の路地・庭・コモンズ
皆さんは太海浜という漁村をご存知でしょうか。千葉県鴨川市にあり、渡し船に乗って島を一周したり釣りや海水浴ができたり、お食事で新鮮な海鮮が出てくる宿があったり知る人ぞ知る名所と言われています。
漁村として作り上げられているため小道や地形を利用した建築物の並びを見ることができ、さらに高台から見える地平線など町の景観はとても魅力的です。
鴨川シーワールドなど観光地の近くにも位置します。しかし現在の太海浜は観光客が減り町の活気は薄れ、民泊を行っていた方々もどんどんお店を閉めてしまっている状況にもあります。今回はそんな瓦屋根が連なる家並,石垣や石畳,板壁の民家で構成された路地空間が混在する漁村、いわば地域性を特徴づけ文化的景観を持つ太海浜3)を紹介していきたいと思います。
そもそも私が太海浜に注目している理由は“コモンズ”に溢れている町だからです。(コモンズの概念については論者によりさまざまであるが、一般的なものとして、共有資源を共同管理する仕組みがあげられる。あるいは、コモンズは「共有地」と訳されることもあり、共有資源そのものを示す場合もある。4)ここでは近隣同士で共に使う路地や水場、私有地内の庭や隙間などを想像すると分かりやすいと思います。特に漁村地域は、基本的に材料や置物が道に多く存在することから、道自体をコモンズとしてとらえることが出来ます。
道をコモンズとしてとらえる動きは現代でも道路を閉鎖しストリートファニチャを設置するなどが見られます。私はこういった“コモンズ”はある意味、人々の所有の意識によって使われ方が変化するため、都市計画や設計では考えられていない、人間から意図的ではなく能動的に表れた生活の形だと考えています。与えられたもの、土地や建物が同じでも、地域性あるいは社会的もしくは性格的に、その使われ方は畑だったり荷物置き場だったり、コミュニティの場であったりします。そういった人によってもしかしたらこの場所の形が違ったかもしれないという可能性の想像を膨らませることが私は好きなので、個人的にも“コモンズ“という空間は魅力的に感じています。
しかし、現代では法によって私的空間と公的空間が明確に分けられていることで、そもそも“コモンズ”としての空間が少なくなってきているような気がしています。警察や政府が管理している空間は果たして“コモンズ”と呼べるのでしょうか。さらにこれは人々の生活がますます閉鎖化され、近隣の生活とのかかわりを避ける方向にむかっているとも考えられます。個人の尊重が重要視されている現代社会では、“コモンズ”が育まれ難く単純に生きづらさや自由度の無さ、そこから生まれるそれぞれの地域の特徴が失われていると考えています。例えば、家を増築や新築するとき、工事の騒音や場所の確保、言わば住居が個別に更新されるその歪みとも見られる面5)は、近隣の繋がりによって克服していると思います。最近はこの繋がりや相互理解が薄れてしまっています。
こういった面でも“コモンズ”とは注目するべき重要な要素の一つだと思います。実際、漁村地域は限りある土地での集住であることで、屋内空間の確保に限界があるという状況から、路地や水場、私有地内の庭や伱間などの屋外空間に多く“コモンズ”の特徴が表れます。3)
前置きが長くなりましたが、これらを踏まえた上で太海浜について紹介していきます。
これらを見て何か思うことはあるでしょうか。この一部分だけでも“コモンズ”は多く表れています。
まずは①②について注目してみましょう。
①②は最初に紹介した眺めの良い展望台への道となっています。これは展望台へ行く観光客のために道をつくったと考えられ、それぞれ比較すると①の玄関前はきれいに整備されているのに対して、②は草が生い茂ってしまっています。これは先ほど話した同じ道でも人によって変化するという話に繋がります。面白いですよね。
続いて③④について見てみましょう。この道は実際に通ってみるとわかりますがかなり狭いです。はじめ遠目から見たら行き止まりかと思いました。ただ、地図の全体像を見るとわかるようにこの道は島を一周するのに重要な役割を果たしています。実際に鴨川市復興のために計画された鴨川ビタミンウォークプロジェクトのルートとなっています。
最後に⑤について、この道は実は階段を上った先にも植木鉢が並べられています。先の道が行き止まりで尚且つ住民のみしか通らない道だからと考えることが出来ます
以上全体で比較しても、色々な背景があって様々な“コモンズ”の形が形成されていることが分かります。みなさんもぜひ日々の生活から“コモンズ”を発見してみてください。
参考文献
1)国土地理院https://maps.gsi.go.jp/
2)Google Map
https://maps.app.goo.gl/FDDXLoS1N4JapW859?g_st=com.google.maps.preview.copy
3) 宮﨑篤徳:漁村における"共"のカタチー空間利用からみたコモンズとその意義ー, 農村計画学会誌,2022,6
4)コモンズ-非営利用語辞典https://www.koueki.jp/dic/hieiri_323/
5) 小泉正太郎,三国政勝:漁業地区における住居及び近隣の空間形成に関する研究ーその1千葉県勝山漁業集落の調査を通してー日本建築学会諞文報告集第312号,1982,2