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忍者はヒーローか?サスケでわかった忍者の悲哀/おたくGさんの覚書:アニメ編その5
クールジャパンと言われるコンテンツの一つ“忍者”。世界の共通語で言えばスパイのようなものだが、とにかく格好いいものと思われている。超人的な肉体と技(忍術)、そして多彩な武器は確かに魅力的だ。アニメでも昔から忍者が活躍するものは多い。小学生低学年の頃、その影響から忍術を真似て忍者ごっこが流行っていた。
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引き金になったのはアニメではなく、特撮版『仮面の忍者 赤影』だ。横山光輝の原作は正統派の忍者漫画なのだが、後半はUFOや怪獣が出てくる奇想天外な内容になっている。面白いから引き込まれるのだが、子供心に「あれ?」と感じることもしばしばだった。忍者に対して格好いいというだけでなく、正義のヒーローとして明るいイメージが根付き始めた時、アニメ『サスケ』の放送がTBSで始まり、忍者に対するイメージも一変する。
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光りあるところに影がある
まこと栄光の陰に数知れぬ忍者の姿があった
命を賭けて歴史を作った影の男たち
だが人よ、名を問うなかれ
闇に生まれ闇に消える、それが忍者のさだめなのだ
「サスケ、お前を斬る!!」
『サスケ』のオープニングで流れるナレーションである。これほど忍者の本質を語っているものはない。少年忍者のサスケが主人公ということもあり、絵柄はかわいらしいのだが、内容は殺伐とした残酷なシーンも多く、各話も幸せな終わり方をすることは少ない。
そもそも、サスケと父親の大猿大助は真田幸村配下の甲賀流猿飛忍群の残党で、徳川の公儀隠密や柳生忍群から追われる立場なのだ。二人が行くところには、必ず不幸も一緒に訪れてしまう。諸国を放浪しながら、様々な敵と戦い成長していくサスケ。忍者の非情な世界を描きながら、時折見せるサスケの優しさが救いだ。
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鬼姫との話が強く記憶に残っている。サスケは復讐に駆られた鬼姫に何度も命を狙われるが、一騎討で勝利し鬼姫が砂地獄に飲み込まれた際に、見殺しにすることができずに助け出してしまう。やがて鬼姫は、大猿の仲間で絵師となった赤猿に認められ、絵に没頭することで復讐を忘れていくという、サスケの中でも屈指のエピソードだ。その他にも敵を倒す度にみせるサスケの悲哀が切ない。
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こんな流れで最後はどうなるのかと思っていたが、長い放浪の果て、サスケと大猿親子はキリシタンの隠れ里に身を寄せる。そして、大猿はキリシタンの若菜と結ばれ新しい命を宿し、義姉の薫を加え、サスケは新しい家族を得てハッピーエンドで終わったのだ。ただ、これはアニメの最終回で、原作では第一部にあたり、第二部があることを中学生になって知る。
そもそも原作は白戸三平なのだから、アニメの最終回で終わるはずがないのだ。第二部では隠れ里で平穏に過ごしていたが、服部半蔵に発見され隠れ里壊滅に追い込まれる。大猿は壊滅の際に脱出する人たちを助ける途中、半蔵の仕掛けた罠により死亡。義姉の薫(原作は楓)も同じく半蔵の罠に命を落とす。若菜(原作ではスガル)も壊滅の折は逃げ延びたが、サスケの介助もむなしく小猿を生んで息を引き取る。小猿を抱え放浪するサスケだったが、力を貸した農民たちの一揆に巻き込まれて小猿が行方不明になってしまい、敵に手裏剣を背中に打たれたまま、放心状態となってサスケも姿をけしてしまう。うむ、何とも後味の悪い終わり方である。今思えば、アニメを一部で終わらせたスポンサー森永製菓とテレビ局の英断だったと思う。
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さて、サスケで印象が色濃いのは、作品に登場する忍術や武器について、科学的な解説で種明かしをしている点だ。ただ、実験を試みてその通りになったこともあるが、分身の術のように理論で分かっても不可能なことの方が多かった。まあ、不可能なことを可能にしているのだから、やはり忍者は超人なのだろう。今や海外でも人気のある忍者。捉え方はどうであれ日本が発信するダークヒーローである。
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蛇足だが、『サスケ』の終了後、フジテレビで『カムイ外伝』が始まる。同じく白戸三平原作で、主役は少年忍者から青年忍者となり、忍者の悲哀をさらに昇華させた内容だ。あまりの内容の暗さに打ち切りとなってしまう。そして、その後番組となったのが、国民的アニメ『サザエさん』である。日の当たらない影の主役から、太陽の光を燦々と浴びた明るい主役に変わり、今に続いているのは何の因果か。
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